アシックスのバット担当・澤野善尋氏
アシックスのバット担当・澤野善尋氏

「大谷選手は当初、バットの素材に北海道産のアオダモを選んでいました。このアオダモに関して大谷選手は20年に『食いつく感覚』と表現しています。この言葉どおり、アオダモはバットとボールの接地時間が長く感じられるのが特徴です」

 イチロー氏も愛用していたアオダモ。弾力があってしなりが良いため、ボールに力を伝える時間が長くなり、その勢いで遠くへ飛ばすことができるというわけだ。

 大谷が46本塁打をマークした21年シーズン、バットに大きな変化があった。素材を、アオダモからカバノキ科の樹木・バーチに変更したのだ。「弾きとしなりを併せ持つ」素材だ。これは同社が「大谷選手に提案した」という。

「アオダモよりも硬い打感の素材、というリクエストがあり、バーチや、より硬くて米国で主流のメイプルなどいろいろ試してもらいました。大谷選手は『メイプルだとかなり硬いですね。バーチだと少し柔らかさがあります』とおっしゃっていました。バーチは硬さの中に、ほんの少しの柔らかさを感じられるのが特徴です。MLBのボールは、NPBのボールに比べて硬い。大谷選手からも『MLBのボールと相性が良く、打感の良さを感じられている』とのお言葉をいただいています」(澤野氏)

 このバーチ、実はアシックスが他社に先んじて採用した素材だという。今でこそ他メーカーも採用しているが、大谷がバーチを使い始めた当時はあまり流通していなかった。それでも大谷は「メイプルやホワイトアッシュを選ぶ選手が多い中で、バーチを選んだ」(同)。

 ここまで聞くと、バーチとの出会いがメジャーでの本塁打量産の道を開いた、とも考えられそうだが、澤野氏はこう言う。

「素材が変わったから打てるようになったという単純な話ではありません。大谷選手はその時のフィジカルコンディションに合わせて、パフォーマンスを最大限発揮できるバットを選んでいる印象です。大谷選手自身のスイングやバットなどいろいろな要素が組み合わさり、相乗効果を生んだのではないかと考えています」

 当時大谷はケガ明けで、スイング変革に取り組んでいた時期とも重なる。

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