大谷翔平
大谷翔平

 ところで、今季も大谷のバットの形状に変化が生じていた。

「今季のバットは手元や中間部分がより太く、重心が手元側に寄っています。20年頃までは、飛距離を優先し重心が先端寄りの形状を採用していましたが、バランスを手元に寄せた形状へと変えた。『飛距離よりも打率にこだわりたい』というお話があり、操作性を重視した結果です。このバットに変えてから、泳ぎ気味の球にも、『すごい食らいつけました』というコメントをいただいています。このバットの良さが生きていると感じました」(同)

■両者の共通点はパワーへの自信

 大谷の成績を見ると、昨季に比べ本塁打の数は46本から34本に減ったものの、打率は2割5分7厘から2割7分3厘に上昇。三振は189個から161個に減った。澤野氏は「これだけの本塁打を打ちながらバランスが手元寄りのバットを使う選手は本当に少ない。今の実績でこのバット、というのがすごい」と舌を巻く。

 取材の結果、村上と大谷のバットは、どちらも一般的な長距離打者とは異なる、飛距離よりも操作性を重視したバットだという奇妙な共通点が浮かび上がってきた。いったい、なぜなのだろうか。

村上宗隆
村上宗隆

 前出の名和氏は、プロ1年目を終えた村上に初めて会った時、その肉体に感嘆したという。村上に限らず、近年は高校時代からウェートトレーニングやプロテインの摂取など洗練された体づくりの手法が取り入れられるようになり、プロ入り時点での選手の筋肉量は数十年前に比べて増加していると見る。

「本塁打を打つには、大きく二つの方法が考えられます。一つはバットを重くしてボールに伝わる力を大きくする。もう一つはバットを軽くして、自身の筋力でスイングスピードを上げる。村上選手は後者です。村上選手をはじめとして、現代の選手は欧米人並みにパワーがついてきて、スイングスピードで本塁打が打てるようになってきた。村上選手がバットの素材に採用しているメイプルは高い反発力があり、非常に硬い。メイプルの硬さがスイングスピードに合っているのではないか」

“当たれば飛ばせる”というパワーへの絶対的自信は、村上にも大谷にも共通していると感じた。メジャーの選手にも負けない驚異的な肉体とスイングを手に入れたことが、両選手がこれまでの「定説」から外れたバットを使うことにつながっているのかもしれない。(桜井恒二)

週刊朝日  2022年11月4日号

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