「元の木材を今までより重いものに変えることで、トータルの重量は変えていません。ボールが一番よく飛ぶ打芯(スイートスポット)が、くりぬいていないものに比べて手元寄りになります。インコースでもさばきやすい効果が生まれるのではないでしょうか」(名和氏)
広角に打ち分けて本塁打を量産した村上。“青木型”のバットの効用もあったのか。名和氏は「あくまで想像ですが……」と前置きし、こう語る。
「打芯が手元寄りになることでボールを呼び込む時間が長くなり、打つポイントがやや後ろ、体に近いほうへ寄せられます。球を最後まで見極めるので広角に打ち分けられるし、三振が少なく四球が多くなっているはず。それが本塁打量産や高打率につながっているのでは」
村上の今季の成績を見ると、昨季から四球は12増、三振は5減。打率は2割7分8厘から3割1分8厘に飛躍的にアップし、歴代最年少で三冠王を獲得した。
もう一つ、村上のバットの使い方には特徴がある。プロ野球選手は状況に応じてバットを使い分けることが多く、平均的には10グラム前後の幅で、重さの違うバットを使うという。10グラムといえば、かっぱえびせん約20個分という微妙な差。一方、村上の場合、この幅が20グラムほどと、平均の2倍の重量差があるバットを使い分けているという。
「10グラム前後の幅なら、選手は重量差を感じないで振れると思います。これが20グラムになると、軽いバットは振りやすくなり、重いバットはヘッドが後から出てくる。村上選手は『変化球が多い投手には後からバットが出てくる重いバットを、逆に速球派の投手と対峙する時は軽いバットを使って自分のパワーで力負けしないように打ちます』という話をされていました。バットの重量差が対応力の向上につながっているようです」(同)
■大谷覚醒の陰に新素材のバット
今季は投手として15勝、打者として2年連続の30本超えとなる34本塁打を放ち、投打両方で規定投球回数・規定打席超えを記録した大谷。
前人未到の偉業を達成した大谷のバットは、13年からアシックスが手がけている。バット担当の澤野善尋氏がこう語る。