つまりはどんなに体育や部活や運動会で頑張っても、日常での鍛錬に勝るものはないという証拠か。さらに思うのは、日本の体育や部活や運動会というのは肉体よりも精神に働きかけるものだったのではないかということ。日本の運動で重視されるのは、1秒でも速く走ること、1センチでも遠くへ跳ぶこと、1グラムでも重たいバーベルを持ち上げることではない。リレーの順番待ちでまっすぐ並ぶこと、クラスメートと一糸乱れぬ体操をすること、炎天下でも弱音を吐かず動き続けることなのかな、と。私たちは運動を通じて、体力よりも精神力を高めてきたのかもしれない。

 そんなことを考えていたアメリカ生活。その後本帰国し、また日本でピラティスの教室に参加しました。近所のジムで毎週開かれている一般的なクラス。やっぱり難易度は低めで、ひとつの動作ごとに体を休める時間があります。余裕だ、と思いながら周りを見回してはたと気づきました。動作の難易度は低めでも、参加者はすべての動作を完璧にこなそうとしているんです。先生も厳しくて、動作を完璧に再現できるよう指導します。どんなにへっぽこでも「いいよーその調子!」とほめて伸ばすアメリカとは真逆の、完璧主義スタイルです。

 平均的アメリカ人は日本人より体力がある、というのも一部は正しいかもしれません。少なくともアメリカの平均的な掃除機が日本のそれより重たいのは事実だといいたい。でも、そもそもアメリカの運動というのは「レベル100のことを50%できればいい」という方針で、日本は「レベル50のことを100%しよう」という価値観であり、結果的に得られる運動量はそう変わらないのかもしれません。

〇大井美紗子(おおい・みさこ)
ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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