水上勉の料理エッセーが原案の映画「土を喰らう十二ヵ月」が今秋公開される。主人公の作家ツトムを演じるのは沢田研二。今回初めて映画の料理に携わったという土井善晴と監督の中江裕司が、撮影現場を振り返りながら映画の世界観がつくられるまでを語り合った。
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中江:土井さんに映画の料理をお願いに行っても、なかなか引き受けてもらえなくて。
土井:今でこそ、監督とはあうんの呼吸でしゃべってますけど、最初はそうじゃなかったんです。料理ってやっぱりその場があって、人がいて、初めて何をするか自(おの)ずから決まってくるものですからね。
中江:そこで改めてこの脚本、この映画にとって料理とは何を表すものなのかと考えました。映画の原案(水上勉『土を喰う日々』)で水上さん自身も、料理をすること、そこに生じる気持ちが、生きることの実感につながると書かれている。それで「この料理をつくってくださいということではなく、このシチュエーションだったら何をつくったらいいかを一緒に考えてもらえませんか」とお話しして。
土井:ただ、四季を追う物語やったら、撮影も1年以上かかりますよと言ったんです。今回であれば、ロケ地の長野の山奥、山の風土が基準になる。土地の素材を使って料理するわけやから。そこで山と話したり、木と話したり、風と話したり。目には見えなくても、地面の下のような、言葉を超えたところでつながる世界がある。
中江:映画を始めるときに、「都合の嘘」はなるべくやめようと決めました。季節や自然に合わせて撮っていこうと。とにかく1年間は撮る覚悟で。
土井:人間中心で考えるのではなく、あくまでも自然があって、その場のなかで何ができるかを考えていくということが、今回の映画の仕事やったんやないかと。
中江:たとえばツトムが持っている器ひとつにしても、それはツトムの人生を表すことになるんだからどうしようか、という話になる。