■「早押し」できる理由

伊沢:『君のクイズ』、めちゃくちゃ面白かったです。クイズ関連の描写に関して、多少は疑義を挟むことになるんだろうなと思いながら読んだんですよ。何もなかったんですよね。説明が的確で過不足なく、クイズプレイヤーの心理も納得のいく描写ばかりで、不自然さを微塵も感じさせなかった。

小川:伊沢さんの著書『クイズ思考の解体』を参考にして書いているから、伊沢さんが不自然さを感じないのは当然かもしれない(笑)。

伊沢:確かに(笑)。

小川:もともと小説というフィクションにクイズという競技は向いているんじゃないかと、直感として持ってはいたんです。小説って、時間を止められるんですよ。クイズプレイヤーの内面や、問題が出された時に頭の中を高速で飛び交っている概念みたいなものも、小説だったら好きなだけ書けるなと思っていたんですね。ただ、実際にクイズプレイヤーは何を考えて競技をしているのか、そこを素直に書いていけば小説として面白いものになると自信を持てるようになったのは、QuizKnockの動画を見たり『クイズ思考の解体』を読んだりしたおかげです。

伊沢:僕が『クイズ思考の解体』を書くにあたって最初に定めたテーマは、「なぜクイズプレイヤーはこんなにボタンが早く押せるのか?」。それを解説したいがために、480ページかけてぶ厚い本を書いたんですね。その問いをよりエンターテインメント化したのが、『君のクイズ』における「ゼロ文字押し」である、とも読める。

小川:そうですね。クイズにおける究極の謎を真ん中に持ってこようと考えた結果、そこに辿り着きました。

■フェアに書きたかった

伊沢:賞金1千万円がかかったクイズ大会、決勝の最終問題。主人公・三島の対戦相手となった東大生の本庄が、一文字も問題文が読まれていないのに早押しボタンを押して正解してしまい、納得のいかない三島が「なぜゼロ文字で押せたのか?」という謎に迫っていく。ミステリーとして面白いうえに、真相究明の過程でクイズ研究の成果がいかんなく盛り込まれていて、なおかつクイズ界に存在するさまざまな論点も網羅的に提示されている。しかも全192ページと、僕の本よりもグッとコンパクトにまとまっている(笑)。いや、すごいですよ。

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