「検索できない未来へ向けて、歩みを止めることを許されない僕らは、何を頼りに時を重ねていけばいいのだろう」
日本経済低迷や環境問題など、未来への不安をあげればキリがない現代人にとって、共感できる一文ではないでしょうか。
この一文は、ポストコロナのビジネス&カルチャーブック『tattva』の別冊として10月11日に出版された書籍『カルチュラル・コンピテンシー』(著・花井優太/鷲尾和彦)の冒頭に記されています。
「高度経済成長という坂道を上りきった末、人口減少社会に突入し、これまでの営みを続けることが難しくなってしまった日本経済の道筋を見つめ直し、『カルチュラル・コンピテンシー』をキーワードに、持続可能な営みのサイクルへのヒントを探る本である」(同書より)
「カルチュラル・コンピテンシー」とは、「カルチュラル」=「文化の」、「コンピテンシー」=「思考に基づいた行動能力」であり、「土地に根ざした文化背景に目を向け、ケアしながら働くような経済サイクルを創り出す能力こそが、本書における『カルチュラル・コンピテンシー』である」としています。
理解を深めるために同書では、持続的な循環社会を生むための12の実践例と識者たちの視点を紹介。たとえば、「難易度の高さから米軍でさえ開発を断念した『蜘蛛の糸』の人工生成に成功したバイオマスベンチャー企業」である、山形県鶴岡市に本社を置くSpiber 株式会社の取り組みを見てみましょう。
「蜘蛛の糸は非常に強靭であり、産業に活用できれば資源や環境問題への糸口となりうると、国内外で耳目を集めた。その後、さらに実用性の高い世界初の人工合成による構造タンパク質素材『Brewed Protein(TM)』の量産化に成功し、衣服から人工毛髪まで様々な領域で製品化が進められている」(同書より)
Spiber代表・関山和秀さんが目指すのは「あらゆる素材がゴミとして捨てられることのない社会」です。関山さんは同書の取材でこう話しています。
「作る必要のあるものが、使用後、すべて資源として再利用できれば、社会に資源をストックしておくことができます。いらなくなったら回収して、別の新しいものの材料にするというのは最も合理的ですし、自然界では実はちゃんとそういうサイクルになっているんですよ」(同書より)
ほかにも、無印良品を展開する株式会社良品計画が、「地域への土着化」を実現するためにおこなっている取り組みを紹介。近畿圏の地域事業部を率いている執行役員 近畿事業部長の松枝展弘さんに話を聞いています。
「もはや社会を良くしていくことと、企業の成長とを切り分けることはできません。私たちが暮らす場所、それぞれの地域社会の豊かさを回復させていかなければ、事業の成長は成立しない時代なのだと思います」(松枝さん/同書より)
大量生産・大量消費の時代が終わりを迎え、さまざまな企業がカルチュラル・コンピテンシーを発揮し始めています。同書では、次世代へとバトンをつなぎ、予測できない未来に備えた「見立てる」「結びつける」「育む」を意識した取り組みが重要であるとしています。
また、著者らが取材を通して得た一つの答えは「文化形成に寄与するような経済活動を行う」こと。そして「過度に奪い合わず『人が人として生き続ける』という目標を根底に据えている」という共通点があったといいます。同書で紹介された、今後の社会を見据えた企業の取り組みに、みなさんも注目してみてはいかがでしょうか。
[文・春夏冬つかさ]