(c)Kent Gavin
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──ソーシャルメディア到来を予期しているような現象だったわけですね。

「この映画には、ソーシャルメディアの起源を遡(さかのぼ)る物語というような意味合いも若干あるかもしれない。たとえばSNSでは、誰もが自分の位置を持っていると感じる。これまで声を持たなかった人に声を与えたという点で、声の民主化ともいえる。その萌芽が当時に垣間見える。人は、なぜかダイアナのニュースに自分の声が反映できると感じた。自分の意見が重要だと。王族となってからの16年間、彼女の一挙手一投足が解剖された。彼女の発言、行動、服装、何もかもが民衆とメディアに分析された。この映画はそれを批判する意味もある。ダイアナの人生は、ある種のエンターテインメントとして消費されてしまった。人々は、その中心に生身の人間の存在があることを忘れてしまう。誰かを責めているわけではなく、こうしたことが繰り返されてきたという事実に目を向けようとしているんだ」

(c)Jeremy Sutton-Hibbert_ Alamy Stock Photo
(c)Jeremy Sutton-Hibbert_ Alamy Stock Photo

──本作は、王室の生活ばかりでなく、英国社会の出来事も盛り込まれています。その意味とは?

「ダイアナの物語は突如発生したわけではない。当時の英国人の多くがチャールズとダイアナの結婚に強い関心を示したのは、背景に不況やストライキが続く荒(すさ)んだ社会状況があり、そこにおとぎ話から飛び出たような夢物語が飛び込んできたから。美しいプリンセスがプリンスに恋をし、結婚した。皆が舞踏会に招かれたような気持ちになった。希望を感じたんだ。その社会的背景は非常に重要だ。本作はダイアナの心理を分析する映画ではないから、キャンバスは可能な限り大きく使いたかった。我々庶民の反応やその意味、恐れや希望や夢などにも目を向けたかった。だから当時の状況を描くことは必須だった」

──ナショナル・ジオグラフィック・チャンネルからキャリアを始めた後、ドキュメンタリー作家になった理由は?

「これまでの作品は、人の心理、内部に入り込む作品が主だった。本作とは対照的だ。社会の片隅に住む人の小さな、時には向き合うことが苦痛な物語を、カメラの前でひもといていくものだ。根本的に、僕は人間性に関心がある。大学では政治と映画を専攻した。人間の行動にずっと強い関心があった。ドキュメンタリーとは共感を生み出す作業だと思う。ドキュメンタリーの主人公はドラマとは違う、生身の人間だと理解することが重要だ。この世には(王族のように)生まれながら役割を課された人もいる。特権にも与(あずか)るが苦労も伴う。この映画を作ってみて、王族の人々に以前よりも僕は同情するようになった。自分があの立場に立たされたらどうするだろうかと、何度も考える機会があったから。大衆の視線を浴びながら生きることについて。彼らの果たすべき役割や義務について。偉大な権力や影響力をもった制度が批判されることは避けられない。この映画の中でも、多くの批判が登場する。それに対し、登場する人たちの同情や共感を入れることで、バランスを取ろうとしたんだ」

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