
ハルキウ州への攻撃が連日続く中、現地の情勢を案じていたのはクセニアさんだけではない。山梨大で国際交流事業を担当する茅暁陽(マオ・シャオヤン)副学長は3月半ば、クセニアさんに「ウクライナのニュースで、毎日怒りと悔しさで心が震えている。大学としてウクライナの人々に何か役に立つことができないか」とメールした。国立航空宇宙大学では、侵攻開始当初からロシア軍の砲撃を受け、キャンパス内にある学生寮やスポーツセンターも破壊されている。クセニアさんが同大の副学長に必要な支援をたずねたところ、先方が要望したのが、授業の提供だった。
山梨大の島田眞路学長がプロジェクトを承認した後、教員たちは手分けをして授業の配信準備に着手し、約1カ月間でAI、クリーンエネルギー、水環境など計13の科目を準備する。うち要望のあった7科目については、国立航空宇宙大学を含む五つの大学に4月半ばから順次配信を行い、その後さらに対面で授業を行う1科目を追加した。
「『今回のような有事案件では、提供までのスピードが大切』と学長が判断し、私達もそれに応える形で準備を急ぎました。山梨大は国立大学の中では比較的小規模ですが、だからこそ決まり事にとらわれず、時に規則を改定してでも物事を進められるのが良い所だと思っています」(茅副学長)
講義が始まった当初の登録者数は、およそ560人。受講生の中には地上は安全が確保されないため、大学構内の地下からアクセスする者もいた。しかし、攻撃が激しくなると、アクセスすらもかなわない学生が増えていく。最終的にコースを修了できたのは、5大学を合わせて22人ほどだった。ディープラーニング(AI技術)の講義を担当した西崎博光教授はこう話す。
「当初、私の科目だけでも80人近い履修登録者がいて、有事下においても学びを継続したいという強い意志を感じました。戦況が悪化する中、最終的にはなんとか発表会まで進むことができ、学びを完遂できた学生もいたことは大変うれしく思います」