──余談だが、知世さんに確認した「私スキ」ファンにはたまらないトリビアを。池上優(知世)が、矢野文男(三上博史)を狙い撃ちするシーンは最初の2人の出会いの場面だけが脚本に書かれていたもので、2回目以降の「ばーん」は知世さんのアドリブだったそうだ。
知世さんのキャリアは歌手と女優の二刀流で始まり、そのスタンスは今も変わっていない。
「今回、自分の音楽を振り返って聴いてみると、そのときどきの自分が思い出されました。10代の頃はただ歌うのが楽しかった子どもでした。歌が仕事になり、自分で考えるようになって、20代、30代、40代と変化していきました。本当に幸せなことに私の場合は、その瞬間を作品に刻んでもらってきていたんだなと感じます。人としての変化が歌に出ていますね。鈴木慶一さん、トーレ・ヨハンソンさん、伊藤ゴローさんとの出会いもありました。みなさん、私の声質を生かすための音楽を考えてくれるタイプのプロデューサーなので、私も無理せず表現することを学んできた気がします。何周まわったのかはわかりませんが、今は子どもの頃に歌っていたときのような楽しさを歌に対して感じるようになってきました」
──知世さんは50歳のときにゴルフを始めたという。か細い彼女がドライバーを振り回しパター片手に芝を読むようなアクティブな姿というのはなかなか想像できないものだ。きっかけは?
「女性のお友達と北海道旅行をしたときに『いろんなところにゴルフ場があって温泉もあるからゴルフができると旅が楽しくなるし、年齢性別関係なく一緒に楽しめるスポーツだから始めたほうがいいよ』と勧められたんです。でも一人で始めるのは心細かったので姉(貴和子)を誘いました。姉は最初『えー!? ゴルフ?』って言っていましたけど(笑)。2人とも経験はありませんでした」
──それからクラブを購入し、レッスンプロに指導を仰ぎ、練習を重ねて1年半後にコースデビューを飾った。ゴルフは音楽にも共通する部分があるという。
「ゴルフはメンタルがダイレクトに影響するスポーツですよね。最初の第1打がうまく当たると気持ちよく始められる。ライブも同じで1曲目の第一声がうまく入れるといい流れになります。それに、コースに出るときに緊張しないようにするには練習を積むしかありません。歌も同じで、練習することで緊張がほぐれていきます。あと50代以降、だんだんとできなくなることも増えてくると思いますが、ゴルフは練習をするとできることが増えていく。進化している自分にすごく感動したんですね。正しいスイングをすれば力に頼らなくてもボールは飛んでいきます。歌も正しい声帯の使い方をすれば大きな声を出さなくても響かせることができる。ゴルフは趣味だけど苦しくて楽しい。だから歌も趣味のように楽しみたいと思いますね。自分の体を育てていく、いいきっかけになりました」