子どものためにどんな支援が正しいのか。途方に暮れ、孤立し、追い詰められていく──。発達障害のある子どもの親への支援が急務だ(写真:gettyimages)
子どものためにどんな支援が正しいのか。途方に暮れ、孤立し、追い詰められていく──。発達障害のある子どもの親への支援が急務だ(写真:gettyimages)

 発達障害のある中学生を殴るなどして、福岡県で施設の理事長らが逮捕された。事件から浮かび上がってきたのは、子どもためにどんな支援が正しいのか苦悩する親の姿だった。AERA 2022年10月3日号から。

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「すがってしまう親御さんの気持ちは、よくわかります」

 東京都内で自閉症の息子(10代)と暮らす女性(40代)はそう話す。

 今年7月、福岡県久留米市で障害児福祉施設などを運営するNPO法人の理事長の男(57)らが逮捕される事件が起き、関係者に衝撃を与えた。

 理事長らは、発達障害のある14歳の中学生の手足を結束バンドなどで拘束し、頭に袋をかぶせ殴って脅し、施設で監禁した。この施設は県内外から重度の知的障害や自閉スペクトラム症(ASD)がある人を積極的に受け入れ、激しい自傷・他害や物を壊すなど「強度行動障害」のある人の生活改善を実現するとPRしていた。中学生の母親は、息子の暴言などに悩み「合宿費用」として約100万円を理事長に支払い依頼していたという。

 冒頭の女性の息子は3歳の時、「自閉症」と診断された。集団生活に入れず、教室から飛び出したり、食事の皿を投げたり。夜中に物音で目覚めると1日中起きていたりした。

 この子にとってどのような支援が正しいの──。

 女性はいくつもの施設や相談先を回り、試行錯誤を繰り返した。だが、夫や両親は「しつけが足りない」などと女性を責めた。女性は「しんどかった」と振り返る。

「発達障害の子を持つ親が最も大変なのが、この子にとって何が正解なのかが見つからないことです。そういう時に、『俺に任せろ』と言って指導をしてくれる人がいたら、大金を払っても頼ったのは親心だと思います」

 自閉症の息子(26)がいる都内在住の女性(55)は、事件についてこう話す。

「暴力で従わせようとすれば、子どもは自分の身を守るために従います。しかし、それでおとなしくなったことが、本当に改善したといえるのか、その後の親子の生活に良い変化があるのか疑問に思います」

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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