全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2022年9月26日号には、東京国立博物館総務課長、館長特任補佐の竹之内勝典さんが登場した。
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150年の歴史を持つ東京国立博物館(東博)で創立以来初めての「館長特任補佐」に就いた。
「どうしたらお客様に喜んでもらえる博物館になるか」
常に考え、行動してきた。
歴史ある建物と文化財を維持するには運営費交付金と寄付だけでは賄えない。入館料以外で資金を調達するため、2001年から行っているイベント会場としての施設貸し出しをより推進した。従来通りでは来場者が増えないと、新たな発想で野外映画上映会やビアナイトを開催し、特別展を含めると年間250万人が来場。庭園の全面改修、来場者がくつろげるソファの新調など、来館者サービスを充実させた。
公務員になって最初の勤務先は筑波大学。それから文化庁など20年間で勤め先は5回変わった。「配属先での問題に対し、改善を始めた矢先に異動し、最後まで見届けられない葛藤が常に残っていました」
転機は12年だった。芸術文化の支援業務を行ってきた経験を生かせる現職に就任した。
「当時の館長が、『研究職と事務職には見えない壁がある。その壁を自由に飛び越え好きに仕事をしなさい』と、役職を作ってくれました」
東博で仕事を続けたいと強く希望し10年。見返り美人図などの所蔵作品を三越伊勢丹でラッピングに使ってもらう企画は広報活動としても成功した。
この経験から積極的に民間企業へのプレゼンを始めた。もちろん、成功ばかりではなく、収入がないときもあった。
「もっと良いアイデアがあるはず」と、国内外の美術館の動向を常にチェック、イベントなどに足しげく通うなどリサーチは怠らない。
「他の人の企画を見て、それに東博のエッセンスをどう取り入れたら面白くなるかを考えています」
東博150周年を祝う企画では初めての試みに挑戦する。150年後に残したい「国宝」候補を一般から公募するというものだ。
「自分のものが東博に展示される可能性があるという夢を持ってもらえる。課題も多いが、お客様の感想が楽しみでならない」
コロナの収束後は、ナイトミュージアムや天体観測を企画している。楽しみは留まることなく、どこまでも膨らんでいく。(ライター・米澤伸子)
※AERA 2022年9月26日号