英国で多いのは、ハノーバーから移って王位についたジョージ1世からエリザベス2世の父までのジョージ、エドワード証聖王からエリザベスの伯父まで8人も続くエドワードであろうか。フランスにおける領土を喪失したジョン欠地王のようにケチのつく名前は選ばれない。
チャールズも英国王の名としては微妙である。前述のジェームズ1世の息子だったチャールズ1世は非常に謹厳実直な性格の持ち主だったようであるが、王権神授説を信じて清教徒が多数を占める議会との妥協をあくまで拒み、革命で断頭台に上るという悲劇の最期を遂げた。
その息子チャールズ2世は辛くも清教徒革命を逃れてフランスに亡命したが、父の仇を討つために頑張った形跡はなく、フランスやスペイン領ネーデルラントのブルージュで優雅な宮廷文化の吸収と美女たちとの恋愛遊戯に10年を費やした。強権的な指導者オリバー・クロムウェルの没後、清教徒政府の瓦解を受けて王政復古で英国に戻ってきたが、政治は家臣に任せて相変わらず多くの愛妾を抱え、庶子たちはノーサンバーランド公やバクルー公、グラフトン公、セントオルバンズ公など、現在も続く英国貴族の先祖となっている。
ただ、王妃キャサリンとの間には嫡子に恵まれず、弟のジェームズ2世、そのあとは姪のメアリー2世、アンと続くが直系の子孫は絶えてしまった。そして遠縁のハノーバー家から英語の話せない英国王がヘンデルとともにやってきてこれが現在の英国王室の直系祖先である。
「ピースメーカー」としての期待
チャールズも物心つくころから、自分が将来は伝統ある王室の後継者であることは意識していたであろうが、先代先々代のチャールズがあまりぱっとしなかったことは面白くなかったであろう。しかし、欧州全体に目を向けると、有名なシャルルマーニュ(カール大帝)や日の沈まないスペイン帝国を築いたカール5世(カルロス1世)など、同名の名君は少なくない。
チャールズ3世はカミラ夫人に発した“下ネタ”が報じられることもあったが、ご両親や祖父のジョージ6世、曽祖父のジョージ5世のような謹厳実直な君主よりもさらにもう1代前のエドワード7世のようなユーモアあふれる国王になっていただきたいと願う。エドワード7世も母であるヴィクトリア女王があまりに偉大かつ長命で王位に就いたときは高齢であり、治世は10年足らずであったが、保守党(ソールズベリー侯爵とバルフォア)と自由党(キャンベル=バナマンとアスキス)が交互に政権を担当、日英同盟、英仏協商、英露協商を締結、甥で英国に対抗意識むき出しだったドイツ皇帝ウィルヘルム2世とも良好な関係を維持した「ピースメーカー」であった。
チャールズ新国王は皇太子時代から環境問題や人権には活発に意見を述べてこられたが、中東のイスラム原理主義者、ロシアとウクライナ、中国と台湾など、世界がきな臭くなっている今こそ、国際協調への活躍を祈念したい。
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