香港の英国総領事館前では写真や月餅(げっぺい)などが供えられていた
香港の英国総領事館前では写真や月餅(げっぺい)などが供えられていた

 1971年には、昭和天皇が戦後初めて訪英している。歓迎の晩餐会で、王族の一人が敵国だった日本の天皇と席を共にしたくないと出席を拒否。その晩餐会でエリザベス女王は「我々はいつも平和で友好的な関係であったかのようなふりはできません。しかし、不幸なことが二度とあってはならないと決意させるのも、またこの過去の経験なのです」とスピーチした。

 渡邉さんは「なんと凜々(りり)しく、立派な女王なのだろうと。女王はこのとき45歳だったんですよ」。

 エリザベス女王と英王室にとって大きな危機が、97年に訪れた。ダイアナ元妃の交通事故死で市民に衝撃と動揺が広がるなか、すでに離婚したダイアナ元妃は正式な王室の一員ではないとして、すぐに哀悼の意を示さず強い反発を招いたのだ。

 在ロンドン歴が長いジャーナリストの高野裕子さんは、王室不要論まで高まったこの騒動が転機となったという。

「経費削減で豪華客船を廃止したり、王室のメンバーが電車に乗ったり、『王室もコストを考えてますよ』というパブリシティーが非常に巧妙になりました。王室のほうからイメージを前向きにするPRをどんどんしたほうがいいという結論になったのでしょう。日本の皇室と全然違いますね」

 エリザベス女王が国賓として初めて来日したのは75年。女王がフィリップ殿下とともにオープンカーに乗って東京都心をパレードし、多くの日本人が歓迎した。

「エリザベス女王はこの訪日で伊勢神宮にお参りされた後、三重県鳥羽市のミキモト真珠島を訪問されました」と、同行取材をした渡邉さんは感慨深げに言う。

「このとき女王は日本政府から土産に真珠のネックレスをプレゼントされたんです。女王はその後もずっとさまざまな場所でこの真珠のネックレスを大切に身に着けていらっしゃいましたね」

 贈られたネックレスは4連の真珠で、中央部分にダイヤモンドがちりばめられた留め具がついたもの。女王は95年のサッチャー首相の70歳の誕生祝賀会など、このネックレスをたびたび身に着けた。82年にはオランダを公式訪問したダイアナ妃に貸し出し、2017年にあった女王夫妻の結婚70周年記念式典の際には、キャサリン妃の襟元を美しく飾った。

 女王に贈られたネックレスが引き継がれていくように、互いの敬意に支えられた英王室と皇室の絆も長く引き継がれていくことだろう。(本誌・鈴木裕也、唐澤俊介)

週刊朝日  2022年9月23・30日合併号

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