私の人生が長くても短くても、皆さんや王室への奉仕に捧げます──。21歳の誕生日にこう誓った女王その人は、96年に及ぶ生涯を閉じるまで有言実行を貫いた。細やかな気遣いで日本の皇室との間に、太く、確かな友好の橋を架けた。
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9月8日に死去した英国のエリザベス女王と日本の皇室のつながりは深い。およそ1世紀の間、戦争の一時期を除いて、天皇家はこれまで英国の王室を手本に歩んできた。上皇さまは1953年、19歳で昭和天皇の名代としてエリザベス女王の戴冠(たいかん)式に出席した。それ以降、8度にわたり訪英し、友好関係を築いた。
「エリザベス女王も日本の皇室をとても大切にされてきました」と皇室ジャーナリストの渡邉みどりさんは言う。
とりわけ印象に残るのは2012年5月18日、エリザベス女王の即位60周年の午餐(ごさん)会に上皇ご夫妻(当時は天皇)が招かれたときのことだという。
この3カ月前、上皇さまは心臓の冠動脈のバイパス手術を受けたばかりで、外務省は皇太子さま(現天皇陛下)を名代に立てることを進言したが、ご夫妻が「どうしても自分たちが行きたい」と強い意向を示された末に実現した訪英だった。
女王はそんな上皇さまを気遣い、ご夫妻を自らエスコートするという特別なおもてなしで出迎えた。その気持ちは、午餐会の席次に表れていた。上皇さまはエリザベス女王の左隣、そして上皇后美智子さまはスウェーデンのグスタフ国王を挟んで右隣だった。
■真珠がつないだ王室と皇室の絆
「日英の絆が感じられるたいへん意味深い席次でした」と渡邉さんは言う。
午餐会に出席された上皇ご夫妻は、その服装で女王や英王室に対する最大の敬意を示した。渡邉さんによると、午餐会に際しては事前に「略礼装で」と言われていたが、上皇后さまは香色五ツ紋の留め袖に、尾形光琳の「燕子花(かきつばた)図屏風」をイメージした西陣の帯という最高格で装った。