中国のZ世代にとって、「はかなげ」な中森明菜は特別な存在

 確かに中国のSNSを見ると、「元祖歌姫」として別格のように扱われていることが多い。特に彼女だけは、他のアイドルにはないキーワードで語られていることが分かった。それは日本では見かけない「易碎感」「破碎感」という中国語だ。

 これらは共にネット用語で、「碎」は「砕」と同じ意味。ここ数年、使われるようになった新しい単語だ。意味は「壊れそうな」「はかなげ」「傷つきやすい」などで、ほかに「寂しげ」「近寄りがたい」「ガラス細工のような」などの意味合いも含む。他のアイドルにはあまりしない形容の仕方だが、これが「絶対無二」で「独特の雰囲気」を醸し出している中森明菜にふさわしいとして、中国の若者の間で使われているようなのだ。

 考えてみれば、中国の若者自身も、日本人が想像するかつての「中国人像」とは異なり、繊細で、傷つきやすいタイプの子が多い。そうしたことも、彼らが明菜に共感する理由かもしれない。

 中国のサイトでは彼女の歌声や、歌番組などでのトーク部分の動画も見ることができ、SNSには「妖艶で、カッコいい」「寂しげな感じが好き」「誰にもこびないところがいい」「メイクやファッションをまねしたい」というコメントが多い。検索されている関連ワードを見ると「(明菜の)現状はどうなっているのか」「金屏風事件とは何のことか」などのフレーズが目立つ。彼らが持っている明菜の知識は、日本人の若者とほとんど変わらないか、それ以上のようだ。

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もちろん、当時を知る中高年にも人気