深田:フランスの編集スタッフの間でも二郎派かパク派かで人気が二分していたんです。

木村:私も迷います(笑)。

■同世代監督のシンクロ

――韓国手話は濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」にも登場する。

深田:これはまったくの偶然なんです。濱口さんとは同世代で親しい監督なんですが。しかもやはり同世代の三宅唱監督の「ケイコ 目を澄ませて」(22年公開予定)も、ろう者の話なんです。謎のシンクロ具合にびっくりしました。

 おそらく僕らは3人ともこの現代社会で、さまざまな人が多様な方法でコミュニケーションをしている状況を目にしている。聴者の日本語だけがコミュニケーションの方法じゃない、それだけで映画を作ることに物足りなさを感じ始めているんじゃないかなと思います。

木村:実際に手話をやってみて思ったのは、手話って曖昧な表現がないんですよね。だから気持ちを相手にダイレクトに伝えることができる。しかも韓国手話はより表情も含めて伝え方がパキパキしているというか。

深田:たしかに妙子は手話で話しているときのほうがキッパリしたキャラクターになっていますね。

木村:私自身、自分の気持ちをはっきり伝えるのがあまり得意じゃないんです。どちらかというと受け身で「自分が我慢すればいい」と思ってしまうし、相手に嫌な思いをさせないように遠まわしの言い方をすることで、逆に相手に伝わらなかったり、誤解を生んだりもしていました。でも今回、手話を学んで、「あ、意外とまっすぐ伝えたほうが伝わることってあるんだな」とわかった気がするんです。

深田:役柄での経験が実生活にもよい影響を与えたとすればそれはうれしいですね。

木村:いままでは英語が下手だからとせっかく海外に行ってもホテルに引きこもったりもしていたんですが「いや、発音も文法も下手でいいからとにかく気持ちをちゃんと届けよう」と思えるようになった。そうすると相手にも「全然いいよ!」って理解してもらえる気がして。映画から新しい世界が広がったと思います。

深田:こちらこそ感謝です。次はヴェネチアでお会いしましょう!

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2022年9月19日号