「近い将来、車の自動運転やドローンによる配送など、衛星のGPS利用が増加すれば、太陽活動が地球上で大きな事故を引き起こす恐れがあります。また、民間の有人宇宙船の打ち上げが始まりましたが、宇宙旅行が本格化すれば、放射線による被曝の問題もでてきます。宇宙天気は私たちの生活にとって潜在的な脅威であるにもかかわらず、日本では多くの人がその言葉すら知らないのが現状で、まずそこから変えていく必要性を感じています」

気象キャスター・斉田季実治さん(46)さいた・きみはる/北海道大学で海洋気象学を専攻し、在学中に気象予報士資格を取得。2006年からNHKで気象キャスターを務める。ヒンメル・コンサルティング代表取締役(photo 本人提供)
気象キャスター・斉田季実治さん(46)さいた・きみはる/北海道大学で海洋気象学を専攻し、在学中に気象予報士資格を取得。2006年からNHKで気象キャスターを務める。ヒンメル・コンサルティング代表取締役(photo 本人提供)

■2年後には資格制度も

 そんな思いから、折に触れて「宇宙天気」の発信に努めてきた斉田さん。その活動が国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT=エヌアイシーティー)の目に留まり、昨年11月、NICTが主催する「宇宙天気ユーザー協議会」のアウトリーチ分科会長に就任した。同分科会にはNPO法人「気象キャスターネットワーク」のメンバーも参加している。斉田さんは、宇宙天気の予報は気象予報士が関わることで発展や普及に貢献できる、と考えている。

「テレビやラジオの天気予報のように、宇宙天気のコーナーを単独でつくるのは難しいと思います。宇宙天気は、天気予報の中で伝えている熱中症や紫外線情報のような形で、必要に応じて気象情報と一緒に伝える形になるのでは、と見ています。そう考えると、気象予報士が宇宙天気予報士の資格も持つのが情報を発信していく上で最も現実的だと思います。気象キャスターも宇宙天気予報士の資格を持つ流れが作れたらいいな、と考えています」

 斉田さんはNICTアウトリーチ分科会やエイビーラボの関係者と力を合わせ、24年をめどに宇宙天気予報士の資格検定制度の確立に挑んでいる。

「地上の防災対策は大きな災害が起きてから進むケースが多いと感じてきましたが、宇宙天気に関しては後手に回らず、次の太陽活動のピークとされる25年には精度の高い情報をより多くの人に伝えられる体制を整備したいと考えています」

 宇宙業界と天気業界のつなぎ役ともいえる斉田さんの活躍に期待がかかる。(編集部・渡辺豪)

AERA 2022年9月12日号より抜粋

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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