やりすぎ感のある社内情報セキュリティー

 もう一つサムスンの社内環境で印象深かったのは、セキュリティーの厳しさだ。仕事に支障をきたすほど厳格に情報セキュリティーを推進していた。

 日本からサムスンの会社、工場、研究所などへ出張で来たことがある人なら、建物に着いてから入場までの時間の長さに辟易(へきえき)したことがあるだろう。社内で使用する全ての紙にはメタルファイバーが埋め込まれており、カバンに隠していても出入口の金属探知機を通過することができないのは有名な話だ。

 USBメモリやSDカードなどを持っていても、社内のパソコンでは認識されないので誰も使わない。それどころか、個人用に支給されるパソコンの内部ハードディスクにはデータを記録することができず、特別なクラウドに保管するようになっている。パソコンを記録媒体として使わないのだ。

 また、個人所有のスマホには特別なアプリをインストールされ、社内ではカメラが起動できないようになっている。さすがに会社も全社員に強制することはできないので、アプリのインストールを拒否することも可能だ。ただ、そうなると、カメラのレンズ部分に特殊なシールを貼られるまで入場できない。なお余談になるが、社員は皆、スマホはGalaxyを持っているイメージだったが、実際には「かっこいいから」という理由でiPhoneを持っている率も結構高かった。

韓国社会&暮らしのいいところ

 ミセモンジ(微細粉塵)で晴れ間が少なく、曇りの日が多い韓国。韓国暮らしについても少し紹介しておこう。

 韓国では、新しいテクノロジーを使いこなしている部分と伝統を守っている部分がうまい具合に混じり合い、日本人の目にはユニークな社会を形成しているように見える。みんながスマホまたはパソコンを持っているという前提で社会インフラができており、日本のように弱者に合わせた“優しい社会”ではない。高齢者の方はどう考えているか分からないが、スマホが使える私の年齢だと、とても合理的に見える。

 例えば、外国人登録証と銀行口座を紐づけして登録しているので、役所の手続きなどはほとんどオンラインで完結する。最近の例では、新型コロナウィルス関連の生活支援金がこういったシステムのおかげで当日入金されたのは有名だ。日本でこうしたことが進まないのは個人情報を守るべきだという声があるからだろうが、韓国にいると、個人情報の心配より利便性だと感じるし、日本のマイナンバーカードは帰国したらすぐに登録しなければと強く思った。

 また、法的規制が少ないのか規制されるのが遅いのか分からないが、韓国ではEVやドローン、電動キックボード等の最新のインフラは、話題になるとすぐに街中で見かけるようになる。日本に比べると規制がゆるく、新しい技術の恩恵をすぐに享受できるので(後に規制が入る場合もあると思うが)社会がダイナミックに見える。もしかすると、日本以外の国はみんなそうで、韓国が特別なわけではないのかもしれないが……。

 また、交差点にパラソル(信号待ちの人に日陰を作るため)を設置したり、散歩道や公園が整備されたりと、生活に密着したところに分かりやすく税金が投入されているので、納税者としての満足度も高い。このあたりは税金の使途が分かりにくい日本に比べて、とてもうらやましい点だ。

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不動産は日本に比べて高すぎる