<ライブレポート>ポルノグラフィティ、8年ぶりの武道館で新しい“暁”の光を見せた【18thライヴサーキット “暁”】
<ライブレポート>ポルノグラフィティ、8年ぶりの武道館で新しい“暁”の光を見せた【18thライヴサーキット “暁”】

 ポルノグラフィティが、1月23日および24日に【18thライヴサーキット “暁”】を東京・日本武道館にて開催した。

 同会場でポルノグラフィティがライブを開催するのは、じつに8年ぶり。ツアータイトルにもある最新アルバム『暁』の収録曲をメインに、往年の人気曲を織り交ぜつつ、圧巻の力強いパフォーマンスで観る人すべてをひとつにしてみせた。2日間行われた日本武道館公演のうち、本稿ではツアーファイナルとなった24日公演の模様をレポートする。

 開演時間を迎えると、突然怪しげな老人男性の声で、この公演が“悪霊たちの宴”だとのアナウンスが流れた。洋館を模したようなステージには一面にスモークが立ち込め、おどろおどろしい雰囲気をいっそう醸し出している。そしてサポートメンバーが登場したのち、扉が開く不気味な音とともに岡野昭仁(Vo.)と新藤晴一(Gt.)がステージへ姿を見せると、1曲目「悪霊少女」がスタート。歌詞の民話的かつダークな、先のアナウンスとも繋がるような世界観で、一気に観客を引き込んでいく。続けてデジタル・ファンク曲「バトロワ・ゲームズ」と、ダンスビートにセクシーなムードが漂う「カメレオン・レンズ」を繰り出し、ジャンルレスな器用さを見せつけた。

 岡野の「わしらがポルノグラフィティじゃー!」との咆哮に大きな拍手で観客も応え、会場はすっかりあたたまりきっている様子。「始まる前から手拍子が起こったのが嬉しい」と、開演前から準備万端の観客に感謝を述べつつ「あの演出から入ったらどう合わせていいかわからんわね(笑)」とユーモアも忘れない。新藤は「このツアーが18回目で、活動が24周年。数は増えていくんだけど、“新しいこと”をやるのが、数字なんかよりもずっと大切なことです」と宣言しつつ、「全国をまわってみんなの熱を込めてもらって、俺たちが作ったときとまた違う『暁』になるんじゃないかと思います。それは皆さんにかかってます!」と観客を鼓舞した。

 「ポルノグラフィティ、24年の歴史がございますので、その曲で爆上げしていこうと思います」との岡野の頼もしい言葉のあとに飛び出した「ネオメロドラマティック」では、その言葉通りにイントロからすでに場内の温度が上がる。2019年のリリースながら、今回がライブ初披露となった「プリズム」、そしてファンからの人気も高いバラード「愛が呼ぶほうへ」と続け、優しい雰囲気で会場を包み込んだ。

 配信で観ているファンからのコメントの紹介や、ライブビューイングではグッズの「ボイスストラップ」が「音が大きすぎて映画館で鳴らせん」ことを明かしたあとは、新藤がプロデュースを務めることが発表されたミュージカル『ヴァグラント』の話題に。新藤の「きっと心配しとる人がいると思うんよ。最初に言うとかないけんのやけど……ミュージカルするとはいえ、僕が歌うわけじゃないです!」との宣言に「ワイヤーで吊られたりせんの!?」と岡野が大きくリアクションし笑いを誘ったあとは、バックのロードムービー風映像が壮大な音像とマッチする「ナンバー」、一転して抜け感のあるサウンドが都会的なイメージを醸し出す「クラウド」、ロマンチックなエレピソロから始まり、チルで色気たっぷりな「ジルダ」とアルバム曲を重ねる。

 アコースティックコーナーでは、2009年の東京ドーム公演【東京ロマンスポルノ'09 ~愛と青春の日々~】ぶりとなった「うたかた」を披露。新藤のスライドを多用したギターの音色が、ポルノの持ち味ともいえるラテンぽさをより引き立てていた。続く「瞬く星の下で」では岡野もアコースティックギターを手に取り、しっとりとした弾き語りでスタート。それが、背後のモニターにそっと流れ星が流れるのを合図に、一気にバンドサウンドに移り変わる演出がなんとも粋だ。

 「みなさんが、生ける屍となる時間がやってきました。みんな覚悟はいい?」と岡野が煽り「Zombies are standing out」が流れ出すと、ステージ両脇に大きな火柱が上がる。スタンド席にまで火が燃えさかる匂いが感じられるなか、よりハードさの増した重厚なバンドサウンドがテンションを盛り立てていた。闇を切り裂くような岡野のパワフルな声と新藤の鋭いギターの音色には、これぞポルノの真骨頂だ、と思わせられる。観客も手を高く突き上げ、その熱量に全力で応えていた。

 そのあとは、打って変わって喪失と悲しみを歌うバラード「メビウス」「証言」と続き、岡野の声も悲痛な叫びのように聴こえてくる。しかし終盤にはセットが横に広がり一気に視界がひらけ、歌詞で描かれる孤独感、そしてそこから立ち上がる力強さを目と耳から感じることができた。

 定番曲「アゲハ蝶」では、“お決まり”の手拍子のリズムも曲が進むにつれて大きさを増し、会場の一体感がどんどん増していく。そして80’sディスコを思わせるファンキーなセッションを挟み、そのアレンジのまま続いたのは「ミュージック・アワー」。全力の“変な踊り”で盛り上がる往年のライブ定番曲だが、今回の新鮮なアレンジでまた違う顔を見せていたのが印象的だ。

 一転してしっとりしたピアノの音色から始まった「VS」と、弱気な自分を鼓舞する歌詞に岡野の一本芯の通った声が映える「テーマソング」では、観客の手もめいっぱい高く挙がる。澄んだ青空のようにひらけたバンドサウンドの合間に、それに負けないくらい大きい観客の手拍子がこだまして聴こえるさまに、思わず胸が熱くなった。

 本編最後を飾った「暁」は、その直前に岡野が語った「暁の先に、きっと今よりも、もっと強い光が差してくることを願って、信じて、みなさんにあと1曲届けたいと思います」とのメッセージを表すような、光へのヒリヒリした渇望が滲むロックチューン。かすかな光の予感による希望ではなく、深い闇の中から抜け出そうともがき苦しむ姿が浮かんでくる曲だが、それがただの“苦しみ”で終わらないのは、ポルノグラフィティがどこまでも“戦う人に寄り添い、背中を押す”音楽を生み出しているからだろう。

 アンコールでは、サプライズで新曲「OLD VILLAGER」を披露。作曲時に岡野がテーマにしていたという“ギターが鳴っている曲を作る”とのテーマに合う、ギターサウンドとシニカルな目線で世の中を見つめる歌詞が印象的だ。しかし、〈Time for me to move on〉と、ラストは前向きに締めくくるのがどこまでもポルノらしい。そして「パーティーチューンが必要やと思うんじゃ?」「“ダサい掛け声”の代わりに、腕がちぎれるくらい手を挙げて!」と約束を交わすと、「Century Lovers」へ。“パーティーチューン”にふさわしいきらびやかなステージと、それを所狭しと駆け回る岡野の姿は、観ているだけでもどんどんテンションが上がってくる。また、恒例の“ダサい掛け声”がボイスストラップでも見事に揃ったさまには、岡野も「武道館借りてみんな1回やった?(笑)」と驚きを隠せない様子をみせた。

 そして「たくさん集まってくれる皆さんの顔とか、楽しそうな様子を見ることが、長く続けている理由。これからもまた皆さんの心に、できたら俺たちの曲の置き場所を作ってもらえるような、それにふさわしいような曲を作っていきたいなと思います」(新藤)「若い時は、日本の音楽シーンという大海原に漠然と自分の作品を投げ込んでいたイメージでした。そこから波紋が大きく大きく立っていけばいいなって……。24年経って、『暁』を作る時にズレとか迷いがなかったのは、届ける場所がはっきりしたから。それは、みなさんに届けるってことです。これからもみなさんの心にしっかり波紋が立つような作品を作っていきたいなと、ともに進んでいけたらいいなと思います。これからもわしらについてきてください」(岡野)と宣言。最後はお決まりの“ラスト1曲”「ジレンマ」で締めくくり、3時間弱の公演を終えた。

 詩的で美しく、一聴して情景がまざまざと浮かぶような楽曲に、聴くだけでカタルシスを感じるようなパワーあふれる声とギター。そしてユーモアを交えつつ、音楽と生の言葉、立ち振る舞いでまっすぐすぎるほどの熱いエールを送ってくれるからこそ、リスナーはポルノグラフィティの音楽にたっぷりの元気と勇気をもらえるのだと思う。暗い世界に差し込む光ーーまさに“暁”のようなその姿に、この先も彼らの音楽を聴き続けていきたいと強く思わされる、そんなライブだった。

Text by Maiko Murata
Photo by 入日伸介

◎公演情報
【18thライヴサーキット “暁”】
2023年1月23日(月)、24日(火) 東京・日本武道館