(AERA2022年8月29日号より)
(AERA2022年8月29日号より)

 訴訟も発生している。今年3月、大阪市が暴言や苦情を繰り返す男性に対し、面談の強要禁止や損害賠償を求めて提訴した。

 カスハラ急増の背景を探るうえでは、やはり「2020年」が重要なキーワードとなる。この年、新型コロナの流行で日常は一変した。感染拡大が続く中で不自由な暮らしを強いられ、誰しも大なり小なり鬱屈した思いを秘めていたはず。平時と比べ神経が過敏になり、「マスク警察」などの言葉も生まれた。

 他人に対する批判は、これまでより激しくなった。過ちを犯した人を糾弾し続けるカウンターカルチャーや、SNSでの執拗な誹謗中傷による自殺が社会問題化したのもこの頃だ。正義感から批判を始めたケースもあるだろうが、許せないという思いが膨張し、振り上げた拳を下ろせなくなる人が増えている。

 実際、カスハラの中でも特に目立つのは「長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム(過度なもの)」や「名誉毀損・侮辱・ひどい暴言」だ。先述した自治体、病院職員を対象とする調査でも「暴言や説教」が63%の最多回答だった。

(AERA2022年8月29日号より)
(AERA2022年8月29日号より)

■血圧検査で怒号の連鎖

 具体的にどんなハラスメントが起きているのか、現場の声を聞こう。最初の事例は茨城県の40代女性から。医療機関での健康診断で起きた出来事だ。

「他の検査は比較的順調でしたが、血圧測定のコーナーで大行列。並んでいる人たちの大半はシニアで、20年、21年は健康診断を自粛していたようでした。久々で緊張したのか胸がドキドキし、異常に高い測定結果が出て、再計測を繰り返していたことで血圧コーナーだけ“渋滞”が発生していたのです」

 やがて「早くしろよ!」と怒号が飛び交い始めた。一人が言い始めると、「ちんたら何やってるんだ!」と連鎖する。ようやく自分の順番が訪れた人も頭に血が上っているので再計測になり、いっそう険悪な状況……という悪循環に陥っていた。

「血圧の次が視力検査コーナーだったのですが、そちらはガラ空きで2人の担当者が立っていました。その担当者に『おまえは暇だろ、血圧の測定をやれ!』と怒鳴る人まで出てきました」

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