――本作では、信長の妻・濃姫との関係性も、これまでにない形で描かれている。打つ手がないと弱音をこぼす信長を奮い立たせ、効果的な打開策を提案するなど、今までになく“対等”だ。
■新しい視点をもらう
木村:史実はわかりませんが、濃姫と出会ったことで、彼の中にはなかった引き出しを授けられた、新しい視点をもらった部分はあるんじゃないですかね。世界中の人々が知っているような有名な絵画でも、赤外線を当てると、「実は下絵が描かれていることがわかった」ということもありますよね。現代を生きる僕らは、その表層の部分しか見ることができないんですけど、人物像にしてもエピソードにしても、それと同じようなことはあるんじゃないかと思います。今川軍との戦いにしても、「全て信長のアイデアで勝った」というほうが、エピソードとしては美しい。でも、もしかすると歴史書に記述されていない部分で、斎藤道三の娘である濃姫に相談したこともあったかもしれない。今回はその下絵の部分というか、「表面からはわからなかった新しい信長と濃姫像を作れるかもな」というモチベーションもありました。
濃姫役の綾瀬(はるか)さんとは3度目の共演ですが、心配は全くなかったですね。彼女もすごく自然体で現場にいたし、スタッフから愛されていた。綾瀬さんは“佇(たたず)まい”で皆を納得させられる力があるんです。演じる、動くだけではなくて、「そこにいる」ということがすごく大切だと思わせてくれる人です。同時に、いないことの喪失感を感じさせてくれる、大きな存在感があります。
ただ、彼女はほかの現場も同時に進めていたので、現場で二人で話し合うこともありました。若い時代のときなら「このほうが幼く見えない?」とか、ラブシーンなら「こうしたほうが理性を失ったように相手を求めているように見える」とか、作戦はよく立てましたね。自分だけでなくこうした関係性の中で、信長と濃姫の間の取り方が構築されていった感じはあります。