※写真はイメージ(Getty Images)
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 その後は「『奥さんとの離婚協議中で財産を押さえられ、日々の現金にも困っている』というマークの言うがまま、50万、100万という大金を送金してしまった。恋愛というより、最初はマークを気の毒に思う気持ちのほうが強かったかもしれません。送金額が膨(ふく)らんでからは、家族のためにも、マークの離婚が成立して、貸したお金を何とか取り戻したいという一心でした」(井出さん)。

 一方の“マーク”は「100万円必要だが、半分は自分で調達するので、半分だけお願い」と、せびる額の減額をけなげに申し出たり、中身は確認できない、数億円が詰まっているという「担保代わり」の大きな袋が届いたり。そんな二重三重の細工が、井出さんの猜疑心(さいぎしん)をさらに霞ませた。

 そんな母を、長女は最初は「母の人生は、母のもの。恋愛だって好きにしてもらっていい」と見守っていた。だが、しばらくして友人や家族にまでお金を借りて送金するようになった母を見て、「もう恋愛ごっこでは片づけられない」ことに気がつく。

「(マークとの恋愛は)家族を幸せにするためと言っていた母に、詐欺ではないかと忠告しても、聞き入れなかった。『借金癖がありDVだった』と母が言う父がいた頃も、母と離婚して父が家を出た後も、母は私たち子どもにとってのすべて。このとき、私は初めて母に逆らうという経験をしたと思います」(長女)

 以来、長女は母の友人らの協力を得て、「マークが本物ではない」証拠集めを始める。チームから送られてきた情報や写真を収集したり、記録したり。詐欺が明るみに出る日に備えた。

■親だって一人の人間

 井出さんは言う。

「いよいよお金がなくなったとき、長女の作った記録や資料を突きつけられて、ようやく自分の過ちに気がついたんです」

 マークとネットで知り合ってから、3年以上が経っていた。

「私を救ってくれた長女や家族、友人たち、ロマンス詐欺に騙されそうになっている誰かのためにも、すべてを告白して働き、一日も早く借金を返そうとしているところです」(井出さん)

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