津市の寒松院にある高虎の五輪塔。高虎の墓は上野動物園内にもある(写真:カジポン・マルコ・残月さん提供)
津市の寒松院にある高虎の五輪塔。高虎の墓は上野動物園内にもある(写真:カジポン・マルコ・残月さん提供)

「戦国の世は死が身近な分、人生を精一杯生きた時代だと思う。そして、並行して茶の湯などの文化も成熟した豊かな時代でした。戦国武将の生きざまや残した言葉の中には、現代に通じるもの、人生の教訓にしたいものが多くあります」

■渡り歩く勇気もらった

 心に深く刺さったのは吉継だけではない。吉継の墓を建てたとされるのは、関ケ原で彼と対峙した藤堂高虎だ。生涯に7度主君をかえた高虎には「裏切り」のイメージも付きまとう。だが、吉継の墓を建てたお礼を伝えに高虎の墓に参り、彼について調べるにつれ、高虎の生き方から人生を渡り歩く勇気をもらった。

「主をかえたのは、自分を信じぬき、高く評価してくれる居場所を探し続けた結果だと思う。フットワークも軽くて、『高虎ならここで方針転換するよな』と考えると気が楽になります」

 戦国の世は女性たちにも苛烈な試練が降りかかる時代だった。織田信長の妹・お市の方は浅井長政の継室となるが、やがて織田家と浅井家は断絶。お市は浅井家に残るも、夫は兄に敗れ、自害する。信長の死後、清須会議を経て柴田勝家と再婚。その勝家が秀吉に敗れると、勝家らとともに北ノ庄城を枕に自害した。何度も究極の選択を迫られながら命を燃やした強さに惹かれるという。そして、カジポンさんには勝家とお市の方についてこんな思いが。

福井市の西光寺にある柴田勝家とお市の方の墓。石室内に勝家(前列中央)のほか、お市や血縁のものが眠る(写真:カジポン・マルコ・残月さん提供)
福井市の西光寺にある柴田勝家とお市の方の墓。石室内に勝家(前列中央)のほか、お市や血縁のものが眠る(写真:カジポン・マルコ・残月さん提供)

「お市は『戦国一の美女』とされ、再婚相手の勝家は60歳でお市と結婚するまで妻を迎えた記録がありません。私は、勝家は主君・信長の妹であるお市に憧れ、独身を貫いていたのではないかと勝手に妄想し、一方的に親近感を覚えていました。ふたりの結婚にお市の意向が考慮されたのかわからないし、勝家が本当に未婚だったのかもわからない。それでも、浅井長政と悲劇的な別れを体験したお市が、柴田勝家に深く愛され、束の間でも救われていたらと、そう願ってやみません」

(編集部・川口穣)

AERA 2023年1月23日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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