「私自身は電子書籍をあまり読んでいなくて、うといんです。担当編集さんが『こういう問題がありますが、どうしますか』と相談してくれたときに、考えてお返事しますが、基本はおまかせでした。たとえば電子書籍の場合、パソコンやスマートフォンでなど端末によって見え方も違うと教わったんですが、それまで考えたこともなかった。ページを1枚ずつ、縦にスクロールさせていく見せ方もあって、『くらもちさんの作品はそれも面白いかもしれない』など、提案してもらったのは面白かったですね。他にもいろいろ電子書籍ならではの見せ方があると知って、刺激を受けました」
■題字にも味わい
今回は各巻の題字をくらもちさんが書いた。味わいのある文字はイラストの一部のようだ。ほかにも巻末にカラー原画を集めたイラストギャラリーや、読者に向けた描き下ろしページもある。
「作品を描いているときは、ただ夢中で、毎回、閉じ込めるように描き終えて、また次の新しい作品を描いていました。カラーの本文原画は雑誌に掲載されたらそのままお蔵入りになることがほとんどなのに、今回全集に全てカラーで収録されることになり、読者の方に見ていただくことができた。私にとっては嬉(うれ)しい奇跡が起こったという感じです」
(ライター・矢内裕子)
※AERA 2022年8月15-22日合併号