やり手の国土交通大臣を演じた2020年版の「半沢直樹」で、その名を知った人も多いだろう。以降、バイプレーヤーとしてだけでなく、主演としても活躍する。俳優・江口のりこさんの素顔は、平常心を保つ達人だった。
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何度となく、「自分は何も変わってないです」と呟(つぶ)いた。2年前、大ヒットドラマに出演し、知名度が上がったこと、それに伴いバラエティーなどの仕事も増えてきたことについても、「しょうがないことですよね」と淡々と振り返る。
「世間の人が、自分が出ているテレビを観ることが多くなっただけで、自分自身は何も変わらないんです。バラエティー番組も自分が『出てみようかな』と思う番組に出ているだけで、『ちょっとそこまでしなくたっていいんじゃない?』と思うことはやってないし。誰かにやらされてるわけではないので、浮かれることも、周りの変化に戸惑うこともないです。もし、20代にこういう状況になったら戸惑ったかもしれないですけど、今はもう42で、大人ですから」
江口さんが上京したのは、18歳のとき。アルバイトで生計を立てながら、劇団東京乾電池のオーディションを受けた。
「映画に興味があったので、役者を目指すことにしたんです。私は昔から、アルバイトなんかでも、長く続けることができなかったし、習い事も、自分から積極的にやりたいと思ったことがなかった。でも、芝居は、続いたんですよ。なんでかわからないけど、しつこく続けてしまう自分がいて。舞台に関しては、好きだし、楽しいし、やりたいと思うからやっているという感じですね」
ブレーク後の2021年には、単発ものや配信も含めると、8本ものドラマに出演しているが、同時に複数の舞台にも出演している。今年2本目となる舞台は、初のミュージカルだ。溝口健二監督の映画「夜の女たち」を長塚圭史さんがミュージカル化し、戦後間もない大阪・釜ケ崎を舞台に、生活苦から夜の闇に堕(お)ちていった女性たちが必死に生き抜こうとした姿が描かれる。1年以上前、長塚さんから、「この時期なんだけど、空いてる?」とサラッと聞かれ、「何か一緒にやるんだなあ」と思ったので、「はい」と答えた。