写真家・水谷章人さんの作品展「甦る白銀の閃光」が1月4日から東京・六本木のフジフイルム スクエア 写真歴史博物館で開催される。水谷さんに聞いた。
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水谷さんは日本を代表するスポーツ写真の第一人者。
特に印象に残るのは、スポーツ雑誌「Number」(文藝春秋)が1980年に創刊されたころの連載「THE SCENE」だ。
それまで、スポーツ写真といえば、試合経過や結果を写した新聞写真がメインだったが、水谷さんの連載写真はそれとは一線を画すものだった。
光を読み、アスリートの美しさや力強さを大胆な構図でとらえた写真は、読者の目を引きつけるとともに、その後のスポーツ写真の表現に大きな影響を与えた。
■モデルは全員トップスキーヤー
そんな水谷さんの作品の原点といえるのが今回、展示されるスキー写真。
「俺の場合、こっちが先で、後からスポーツ写真がくっついてきた。写真界の先生方からすると、いまでも『スキー写真の水谷』の印象が強いよ」
そう言いながら、水谷さんは1967年から90年代に撮影したモノクロ写真をテーブルの上に並べた。
「俺の作品にはごみみたいな人工物は入れない。大自然がバックになっているものばかりだね」
ダイナミックな滑りを見せるのは三浦雄一郎さんをはじめ、オリンピックなどで活躍した往年の名スキーヤー。
「トップクラスの人でないと、俺のモデルは務まらない。もし、1本滑って、途中で転んだら、雪に跡がついちゃう。そうしたら、もう、その斜面は使えないんだよ」
作品の舞台の多くは北アルプスなどの冬山で、「誰も入っていないようなところを滑ってもらった」。
整備の行き届いたゲレンデとは違い、冬山の雪質は気象条件や地形によってふかふかの新雪からアイスバーンまで、複雑に変化する。さらに、山に吹きつける強い風が雪面をえぐる。水谷さんは、どんな雪であっても指示どおりに滑れる腕前をスキーヤーに求めた。
「俺が映画監督みたいなもので、一つひとつ注文をつけて、滑ってもらうことが大事なんだ。何時何分に、光と影がこうなるから、そこを滑ってくれ、と。雪の模様を生かして滑ってほしい、とかね。それに的確に応えられるのは、俳優に例えれば、名優。スキーヤーなら誰でもいい、というわけにはいかないんだよ」