かが・しょう/1993年、岡山県生まれ。2015年に賀屋壮也とお笑いコンビ「かが屋」を結成。「キングオブコント2019」決勝進出。テレビのバラエティー番組、ラジオ「かが屋の鶴の間」などに出演。短歌、自由律俳句でも活躍(photo 小黒冴夏)
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 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

【写真】加賀翔さんの著作『おおあんごう』はこちら

『おおあんごう』は、少年の繊細な心と成長した姿を描く、加賀翔さんによる初めての小説だ。岡山の田舎に住む小学生のぼくは、父親の乱暴な言動に翻弄され、心を痛める日々を送っている。凛とした母親、やさしい祖母、親友との温かな時間とは裏腹に、父親の酒量は増えるばかり。とうとうパトカーが家にやってきて……。時は流れ、お笑い芸人を目指して上京したぼくは、久しぶりに父親と再会する。著者である加賀さんに、同著にかける思いを聞いた。

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 お笑いコンビ、かが屋の加賀翔さん(28)が初めて小説を書いた。題名の「おおあんごう」は岡山の方言で「大バカ」という意味。それが口癖だった自分の父親、生まれ育った岡山県の小さな町をモチーフにした少年の物語だ。

「お話を書いてみたいという気持ちは小さい頃からあったんですけど、文章を書くのが苦手で、物書きにはなれないだろうと思って芸人になったところもあるんです」

 最初は文芸誌「群像」からエッセーを依頼され、締め切りギリギリまで悩んで書いた。それが評価されて長編小説への道が開けたが、完成までは試行錯誤が続いた。

「全部出し切って小説を書いたのに、1冊の6分の1の分量にしかならなくて、心が折れました。コントは物語を短く、短くしていくので、小説も10分くらいの短いものになっちゃったんです」

 作家のインタビューを読み、その作法にならって毎朝少しずつ書いた。100文字ずつ増やしていったがうまくいかず、結局、頭から書き直した。

 暑ければどこでもシャツを脱いで上半身裸になり、気に入らないと手を上げる父親に少年と母親は振り回される。小説を書くことになったとき、すぐに自分の家族と地元を題材にしようと決めた。1作目からフィクションをすべて作り上げるのは難しいし、家族の話は避けて通れない。

「家族を俳優に見立てて動かしていく感覚が面白かったですね。コントを作っているおかげで、ある場面で人がどんな気持ちになるのか、考える機会は多いんです」

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