ここまで読んで、こう思った方もいるでしょう。「乾燥機買えば?」と。わかります、というか、あるんです乾燥機。使ってもいるんです。でも、それでも、外干しをしたくなる。ピカピカに晴れわたった気持ちいい青空を見ると、どうしても体がうずうずして、洗濯ハンガーを取り出してしまうのです。

 アメリカでは、外に洗濯物を干しているお家はほとんど見かけませんでした。乾燥機が手に入らない家庭の多い地域だったり、日本のように外干しする文化の国・地域から来た人たちが多い地域では稀に見かけますが、基本的に外干しはせず乾燥機だよりだと言っていいでしょう。景観保護のために外に物を吊るすことを禁止している地区もあります。気候的に外干しが難しい地域もあります。

 そんな国に住んで、乾燥機の便利さを知り、日本に帰ってきてから乾燥機も買ったのに、それでも手間のかかる外干しを選んでしまう。これはもう、日本人の悲しい性なんだと思います。日本人とはまた大きく出たなと叱られてしまうかもしれませんが、たとえば、北陸地方の家を見てください。福井や石川あたりも晴れの日が少なくて外干しが難しい地域ですが、乾燥機ではなくサンルームを完備する方向に技術が進化しています。乾燥機を置くには洗面所に結構なスペースが必要だとか、乾燥機対応の服が少なめだとか、いろいろ理由はあると思うのですが、やっぱり日本人はハンガーにかけておひさまの光で洗濯物を乾かすのが好きなんだろうなと思います。

 洗濯に多大な手間をかけるようになって、よかったこともひとつあります。空と風を意識するようになったのです。天気予報だけではわからない天候の変化が、空と風を見ているとなんとなく読み取れます。アメリカで住んでいた集合住宅ではほぼ一年中セントラルヒーティングをつけていて、景観保護の観点から網戸をつけるのも禁止だったので、窓を開けて換気することが滅多にありませんでした。家のなかにいて、外の風をまったく感じずに一日を終えることもありました。それが日本では窓を開け放ち、家じゅうに風を通せるようになりました。空の雲が重たくなったり、風に湿り気を感じたりしたら急いで窓を閉め、洗濯物を取り込む。手間はものすごくかかりますが、こうして自然を感じながら暮らすのも悪くないかな、と思った2021年でした。 

〇大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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