「普通は管理職になる頃には退任しますが、小嶺先生は国見で校長になっても在任し続けた稀有な存在。それでも小嶺先生がいなくなったあとの国見は、2000年代前半に全盛期を誇った頃の強豪ではなくなってしまいました。指導者の力は大きいと思います」(元川氏)
異動を機に、名将が公立から私立へ移る動きもある。異動のたびに選手集めからやり直さなければならない公立よりも、私立高校のほうが腰を据えて指導できるメリットがあるためだ。
その一例が、千葉県内の公立高校で指導した本田裕一郎さん(74)。習志野高校からの異動を機に公立高校の教員を退職。その後、01~19年まで私立・流通経済大柏の監督を務め、全国大会の常連校へと成長させた。
規定の厳しい公立と比べると、私立の監督は、長期にわたって同一校で指導を続けるケースが目立つ。前橋育英の校長を兼務する山田耕介監督は、1982年から現在にかけ、約40年間監督を続けている。今大会で優勝した青森山田の黒田剛監督も、94年から指導を続け、チームを絶対王者に育て上げた。
「青森山田でプレーを希望する選手が集まるのは、黒田先生の指導力やマネジメント力も大きいと思います。そのチームの“看板”となる監督が長く在籍し、その下で若い指導者が育つような環境でなければ、強豪校でい続けるのは難しい」(元川氏)
また、元川氏は、「リーグ戦文化の普及」も私立優勢の状況に影響を与えたのではないかと指摘する。2003年にプリンスリーグ(9地域に分けて実施するリーグ戦。現在はプレミアリーグの2部の位置付け)、2011年にプレミアリーグが始動。リーグ戦の普及は、私立が優勢になった時期と重なる。
「年間通して高いレベルでリーグ戦を勝ち抜くためには、豊富な選手層が必要。特待生などで選手を集められる私立は有望な選手を数多く入学させられます。青森山田や静岡学園、東福岡には200人を超える部員がいる。静岡学園などは280人もの選手を7~8カテゴリーに分けて活動させているといいますから、底力が分かるでしょう。入学基準の厳しい公立はそういうわけにはいきません。戦力的に厳しくなるのはやむを得ないと思います」(元川氏)