昨年12月の全日本選手権で、北京冬季五輪への出場権を手にした羽生結弦。公式練習では、いまだ成功例のないクワッドアクセル(4回転半)に挑む姿を見せ、ショートプログラムで圧巻の演技で首位に。続くフリーには、これまでない心境で挑んだという。AERA 2022年1月17日号の記事から。
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26日は最終滑走。演技前の心境はこれまでにないものだった。
「正直泣きそうで、あと何回こういう景色がみられるだろうとか、今までの頑張ってきたこととかいろいろ思い出して」
競技人生の「最終目標」に定める技に初めて挑む。かかる重圧は想像を超えるものだった。
1万7809人の観客が祈るように見つめる中、フリー「天と地と」が始まった。
冒頭のジャンプへ。
ゆったりとした助走から高く跳ぶ。今大会の練習と同じ形だった。4回転を回るところで、羽生は両足を着いた。転倒はしなかったが、回転は足りず、認定はならなかった。
それでも、引きずらないのが羽生だ。その後の演技は完璧に演じた。合計322.36点。圧勝で2連覇を飾った。
違った強さで臨みたい
演技を終えると、ほっとした表情で、思いをはき出した。
「まあ、がんばったなって感じ。初日(23日)のアクセルをみなさん見て、めちゃくちゃ上手になったと思われたと思うけど、あれができるようになったのはここ2週間ぐらい。それまでは、ぶっ飛ばして跳んで、何回も体をうちつけて、死ににいくようなジャンプをしていた」
昨年11月のNHK杯前には右足首を痛め、ストレスで食道炎に。何度も諦めようと思った。しかし、全日本直前の練習で手応えをつかんだ。
「あと4分の1で完全に回りきった。せっかくここまできた。みなさんが僕にかけてくれている夢だから、みなさんのために、かなえてあげたい」
北京五輪の代表に選ばれ、日本代表のジャージーを着た。記者会見に向かう中で、新たな思いが宿った。