岸田文雄首相
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 岸田文雄政権誕生から3カ月半。新型コロナウィルス・オミクロン株の感染が急拡大しているが、これまでのところ、内閣支持率は上昇傾向だ。安倍晋三・菅義偉政権の強権的政治姿勢から、「聞く力」をアピールし、「成長と分配の好循環」「新しい資本主義」を掲げて国民に寄り添うポーズを取り、また、コロナ対策失敗で政権を追われた菅氏を反面教師として、早めに厳しい入国規制を実施したのが好感を呼んだようだ。

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 しかし、私は、岸田氏の会見を見るたびに、違和感を抱く。なぜなら、岸田氏が非常に困難な課題について語る時、「涼しい顔」で用意した紙を読むだけで、全く危機感が伝わってこないからだ。

 例えば、ワクチン接種の前倒しを宣言した1月11日の会見。岸田氏の表情を見る限り、明日から何の問題もなく接種が進むような錯覚に陥る。それくらい「涼しい顔」なのだ。

 しかし、実際には、具体的にいつから接種を受けられるのかは全く不明だ。昨年12月に、3回目の接種を2回目接種から8か月後ではなく、6か月後から可能にすると岸田総理が発表した時も「涼しい顔」だった。このため、医療従事者などにはすぐに接種が始まると多くの人が思ったはずだ。しかし、実際には、ほとんど進まず、沖縄ではすでに医療従事者の感染増加で事実上の医療崩壊が起きている。

 お隣韓国ではリスクの高い60歳以上の接種を急ぎ、3回目接種の比率は8割超だが、日本ではごく一部の地域でしか始まっていない。オミクロン株は重症化する確率は低いとしても、多くの高齢者が2回目のワクチン接種後6カ月を経過し、その効果が落ちる時期と感染爆発が重なるのだから、相当危険な状況になっている。それを考えれば、もう少しは危機感を漂わせても良い気がするのだが、岸田氏の「涼しい顔」は変わらない。

「新しい資本主義」で、分配重視と語り、3%超の賃上げを経済界に期待すると岸田総理が言うときの顔もまた非常に「涼しい」ものだ。その様子を見ると、今年は皆3%以上給料が上がると思うかもしれない。

 だが、コロナ禍もあり、1%の賃上げでさえ難しい企業は多い。この状況で全体として賃上げを進めるには、賃上げできない生産性の低い企業の大量淘汰が必須。相当な覚悟が必要だが、岸田氏の口からは、その覚悟も、また、それを可能にするような具体的な政策も出てこない。ただの絵に描いたに過ぎない。

 海外の資源高や景気回復による需要増に伴うインフレ、そして、史上最悪水準と言われる円安のダブルパンチで、これから庶民が狙い撃ちされるだろう輸入インフレにどう立ち向かうのか、世界に完全に出遅れた電気自動車や再生可能エネルギーなどの重要産業をどうやって立て直すのか、などの気の遠くなるよう難題もある。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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