その年は、長らく常連だった島倉千代子さんや水前寺清子さん、三波春夫さんの出場がなく、新たにニューミュージックやシャンソンからオペラに至るまで、ジャンルの多様性を打ち出し、さらには目玉演出のひとつとして、当時最先端だったディスコと同じ巨大照明装置を導入するなど、あの手この手で「ナウで洗練された新しい紅白」への変貌に躍起になっていました。しかし、それを観ていた12歳の私には、ただただ紅白の持つ野暮ったさや田舎臭さみたいなものしか印象に残りませんでした。と同時に「紅白はお洒落で都会的であってはならない」という真実を知ったのです。まさに87年は「紅白の永遠性」を見た回だったと言えます。
で、昨年はというと、元日の朝から仕事だったため、早々に寝支度をしながら何となく視聴した紅白でしたが、名前も聞いたことのない歌手が歌っていようと、藤井風さんのような旬でレアな人が出てこようと、そこには安定の野暮ったさが漂っており安心した次第です。私が最も紅白っぽさを感じたのは「まふまふ」という歌い手でした。紅白が「一世一代の夢舞台」であるにふさわしい雰囲気に満ちていて、とても良かった。やはり芸能には悲壮感が必要不可欠です。
ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
※週刊朝日 2022年1月28日号