
南太平洋のトンガで起きた海底火山の大規模噴火は、現地に多大な被害をもたらした。大噴火が続けば、気候変動や食糧への影響も懸念される。AERA 2022年1月31日号の記事から。
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爆発の後、灰色の噴煙が一気に広がった。日本時間1月15日午後1時ごろ発生した、南太平洋のトンガ諸島の海底火山フンガトンガ・フンガハーパイの大噴火。噴煙は成層圏に達した。
「今回の噴火は、大量の火山灰や軽石を高層までまき上げる『プリニー式噴火』と呼ばれるタイプです。昨年の12月に噴火を始め、一度休眠状態であることが伝えられた後、大噴火の前日にも噴火しています。このときにマグマが通る『火道(かどう)』が一気に広がり、マグマの中の水分が気化し膨張したことで起きたと考えられます」
と話すのは、火山学者で京都大学の鎌田浩毅(ひろき)名誉教授だ。
火山の爆発規模は、「火山爆発指数(VEI)」と呼ばれる世界共通の指数で表される。0~8まで9段階あり、1増えるごとに噴出量は約10倍になる。5以上は「非常に大規模」とされ、江戸時代の1707年に起きた富士山の宝永噴火は「5」。7以上は、人類や文明に大きな影響を与える「破局噴火」と言われる。
今回、噴煙の高さは20キロ以上で成層圏に達し、直径は500キロ以上と北海道に匹敵。衝撃波は、噴火地点から同心円状に秒速約300メートルで広がったと見られている。鎌田名誉教授は、噴煙の高さ・大きさ、衝撃波の強さから、今回の噴火のVEIは「6級」と試算する。
「噴火はまだ収まってなく、今後、マグマをためて大噴火や大きな津波を起こす巨大なカルデラを形成する可能性があります」
噴火で懸念されるのが気候への影響だ。気象庁の担当者は言う。
「これから専門家が色々と検証することになるのでまだ何とも言えません。ただ、噴煙があれだけ広がったので、気象にも影響は出てくると考えられます」
■凶作で平成のコメ騒動
思い出すのが1991年6月に起きた、20世紀最大の噴火といわれるフィリピンのピナトゥボ火山の大噴火だ。VEIは6で、1700万トン近い二酸化硫黄を含む火山ガスが放出され、大量の微粒子が発生して太陽光を遮り世界の平均気温を0.4度押し下げた。2年後、日本ではコメが大凶作となり、タイ米を緊急輸入。コメを販売する店に長蛇の列ができ「平成のコメ騒動」などと呼ばれた。
今回の噴火による気候への影響は限定的との見方がある一方で、災害リスクマネジメントが専門の立命館大学環太平洋文明研究センターの高橋学特任教授はこう指摘する。
「トンガの噴火は今後も活動が続く可能性は否定できません。継続次第で、地球全体の気温が下がり、寒冷化が進む可能性が考えられます」
そうなった場合、コメ、小麦、トウモロコシなどの穀物に影響が出ると語る。
「日本は再びコメ不足になるかもしれません。さらに日本は、小麦の約9割をアメリカやカナダ、オーストラリアからの輸入に頼っています。いま小麦が値上がりしていますが、今後さらに値上がりする心配があります。また、特に風下に当たるオーストラリアに火山ガスによる酸性雨が降れば、影響は甚大です」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2022年1月31日号より抜粋
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