いつかは訪れる死。死とは何かという問いは、常に私たちの心を捉えてきた。コロナ禍で多くの人が死を意識する場面が増えた今、科学を通じて、あらためて「その時」と向き合ってみた。読めば少しだけ「お迎え」が怖くなくなるかも!?
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現在、薬で人為的に老化細胞を除去する研究が進められている。実現すれば老化を遅らせ、健康寿命が延びることが期待される。『生物はなぜ死ぬのか』(講談社現代新書)の著者で、東京大学定量生命科学研究所の小林武彦教授はヒトが目指すべきお手本は、アフリカに生息するハダカデバネズミだという。
「ハツカネズミが野生で生きられるのは、数カ月から1年程度。ところが、ハダカデバネズミ(体長10~13センチ)の寿命は何と30年です。地中に穴を掘り集団で生活します。アリなどの昆虫と同じように女王を中心とする分業制ですが、多くの個体がゴロゴロと昼寝をしています。分業による労働時間の短縮でストレスが軽減され、老化細胞がなく、がんもまったくできない。それで超長寿につながったと考えられます。そのためか死ぬ直前までピンピンしています」
ただし、いくら健康寿命を延ばしても、人間の寿命自体を延ばすことには限界があるという。いずれは受け入れざるを得ない「死」。最期は「どれくらい苦しいのか」、という点も気になる。
がん患者のうち、およそ7割は痛みの症状に悩まされているというデータもある。ただ、近年は痛み止めのモルヒネなどを用いた緩和ケアが充実し、治療によって痛みの90%以上は抑えられるようになったという。
「痛みは肉体的にも精神的にもダメージを与えますから、薬でうまくコントロールして解消するのがいい」(『ヒトはどうして死ぬのか』(幻冬舎新書)の著者で、東京理科大学研究推進機構総合研究院の田沼靖一教授)
それでは、私たちは死ぬと、どのような状態になるのだろうか。小林教授がこう答える。