「死んだことがないのでわかりませんが、眠っている時と同じような状態で、そのまま起きることがないということだと思います。寝ている時も周期的にうっすらと意識がありますが、一番深い睡眠時はほとんど意識がなく、その状態に近いのではないでしょうか」

 とはいえ、死という未知のものに対する恐怖心はなかなか拭い難いもの。小林教授が生物学者としての死生観を語る。

「いま、私たちが存在するのは、過去の夥しい死に支えられているから。生き物にとって死とは、進化を実現させるためにある。変化と選択をくり返して進化し、生き残った末裔が私たちなのです。自分も生まれてきた以上は生を謳歌し、命を次の世代につなぐためにも“利他的に”死んでいかなければならないのです」

 また、田沼教授は、もし人間に「死」がなかったり、何百年も生き続けられたりすれば、「自分とは何か」というアイデンティティーを問うこともなくなり、むしろ生きていることが空虚になってしまうだろう、と説く。

◆コロナで露呈した死因究明の弱さ 家族を見送る通過儀礼も喪失

 新型コロナウイルス感染症が確認されて2年が経過した。変異株の流行が相次ぎ、いやが応でも死について考えさせられた人も多いのではないか。

 昨年8月には、コロナに感染して自宅などで死亡した人が全国で250人に上った。千葉県では当初、軽症と診断された20代の男性が自宅療養中に容体が急変し、亡くなっている。

 千葉大学大学院医学研究院法医学教室の岩瀬博太郎教授が厳しい口調で語る。

「自宅療養死が増えた時など、特に若年者の場合は解剖が必須です。ところが、日本ではまったく行われていません。20代の若者が自宅で死亡していたら、他の先進国ならばまちがいなく解剖します。(合併症の一つとされる)心筋炎は若い人が突然死する場合、比較的多い死因ですが、CTでは見つけられません。解剖すれば、コロナ感染症による死因の実態究明にもつながるはずです」

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