「エスニック料理好きの私でも知らない食材や料理が予想より多く、たとえばエチオピア料理の食べ方や盛り付け方をYouTubeで調べたりして。原文の理解には文献だけでなくネットの動画や画像も役立ちますが、その分、わからないでは済まされません。この図鑑も調べ物の時間と手間がかなりかかりました」

 また、ネイティブにはピンとくるフレーズが、日本人にはわからないという文化的背景の違いもある。著者の遊び心が盛り込まれた英語ならではの表現の訳にも悩んだ。

「スラングのおかしな料理名をただカタカナ英語にするのは、避けたい。でも、訳しても意味不明なものもあって。そのへんをどう処理するかの判断は難しかったです」

 さらに、ビジュアルが多い本はレイアウトに苦労する。日本語版は原著より判型が一回りほど小さい。にもかかわらず、原著と同じようにイラストと英語の見出しを配置し、書体も工夫しながら、日本文を加えなければならない。

「印刷の直前まで、日本語の本として読みやすく、字面が美しくなるように、一字一句、位置にもこだわって校正しました。この本は編集者さん、デザイナーさん、印刷所の方も含め、制作に関わった全員の努力の結晶なんです」

 それだけに、読者から「きれいで読みやすい」「世界の食を学べて楽しい」と聞くと、うれしさがこみ上げる。

 アメリカでは同シリーズで「NATURE」「FARM」「OCEAN」図鑑も出版されている。神崎さんの次の目標は、それらの翻訳も手がけることだ。(ライター・角田奈穂子)

AERA 2022年1月31日号

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