作家・コラムニスト、亀和田武氏が数ある雑誌の中から気になる一冊を取り上げる「マガジンの虎」。今回は「東京かわら版」。
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落語が聴きたいな。誰が、どこで演ってるんだろうか。そんなとき手元に「東京かわら版」(東京かわら版)があると助かる。演者と会場。その膨大な固有名詞を見てるだけで、妄想が膨らみ、気がつくと疲労困憊している。
寄席やホールに、また通うようになったのは、コロナ感染者が激減した昨年の秋か。恵比寿のホールで一之輔さんも観ましたよ。「浜野矩随(のちゆき)」の枕で、恵比寿ガーデンプレイスのバカラのグラスを取りあげた。ロレーヌ地方にきっとバカラ村ってのが、あるんでしょうね。ロベールって若いバカラ職人が……。
白酒、兼好、文蔵と、それは豪華な四人会でした。で、「かわら版」1月号の表紙は、桃月庵白酒。コロナ感染で入院し、7キロ痩せたが、退院して菓子やラーメンをバクバク食って、3日でもとの体重に回復。
しかしコロナ復帰後に体調を戻すのは大変。「声がまるっきり出てない。喉もだけど、胸、背筋、腹筋とか全部落ちてる」という。歳の問題もある。「五十歳はね、びっくりするくらい変わりますよ」「自転車も乗るのが面倒くさいと思うようになった」と。いまの俺が、それ。ま、70歳ですから。「もう寒い中乗るのが面倒くさい」。わかります。1週間在宅もザラだ。
噺のテンポを意識的に変えているという。「寄席は出演者の流れによっては」以前のテンポでやったり、ゆっくりめにやったり。「いろんなお客さんがいるので寄席はやっぱり一番勉強になります」。「『芝浜』が良い例ですけど、最初の起こし方が違うだけで雰囲気が変わるわけですから」。そうなんです。
「芝浜」を昔ながらの人情噺にして、女房の声を気色悪い涙声にする噺家が、私は大ッ嫌いでね。泣かせる噺も爆笑譚にする白酒や一之輔の知力って、やっぱり凄いや。
※週刊朝日 2022年2月11日号