矢野監督は就任1年目から3年連続Aクラス。2020、21年は2位だった。だが、その戦いぶりは決して評価が高いとは言えない。昨季は佐藤輝明(22)ら新人の台頭で首位を快走したが、後半戦は主力打者たちが軒並み不振で失速。4年連続で12球団ワーストの86失策と守備のほころびも目立った。
「矢野監督は喜怒哀楽をはっきり出す。サヨナラ勝ちしたときは喜びのあまり選手より早くベンチを飛び出しますから。一方で、手痛いミスが出ると表情が一気に暗くなる。選手と共に戦っている姿勢は理解できますが、もう少しどっしりしていてもいいかなと感じます。感情の浮き沈みが激しいと、ベンチの雰囲気にも影響しますしね」(テレビ関係者)
■サイン盗み疑惑で批判
選手を守る行動が批判を呼んだこともあった。昨年7月6日のヤクルト戦(神宮)で起きた「サイン盗み疑惑」が象徴的な出来事だ。
阪神が4点リードで迎えた五回2死一、二塁。二塁走者・近本光司(27)がひざに置いていた左手を横に真っすぐに伸ばして停止。ひざの上に戻した後に左手を再度動かす不自然な行為を繰り返した。打者に配球を教える禁止行為に見えたため、三塁手の村上宗隆(22)が審判にアピールすると、矢野監督は激高。井上一樹ヘッドコーチ(50)と共に「ごちゃごちゃ言うな」「絶対やってへんわ。アホ、ボケ!」と相手ベンチに向けて発し、敬語で異論を唱えた村上にも怒りの言葉を浴びせた。
矢野監督は今年1月19日に行われた12球団監督会議で確認された「フェアプレー精神の順守」が、阪神サイドからの強い働きかけで議題に上がったことを明かし、「サイン盗み疑惑」での潔白を改めて強調した。
「あの一件から打てない時期が続くと、『サイン盗みをやっていたから』などと身に覚えのないことを言われ、チームを守るために発信しなければいけないと感じたのでしょう。ただ、阪神がサイン盗みを行っていると思っている野球ファンは皆無に近い。それより、村上に対して怒号を飛ばしたことに批判の声が集まっている。矢野さんは普段は穏やかで人間味があって優しい。こういう形で誤解されたままなのはもったいないなと感じます」(スポーツ紙デスク)
■優勝の可能性は十分
選手たちからの人望は厚い。「矢野監督に男の花道を飾らせよう」と結束が強まる可能性は十分にある。昨季最多勝の青柳晃洋(こうよう)(28)ら12球団屈指の先発陣を擁し、救援陣を整備すればリーグ優勝は十分に狙える。
かつて阪神でチームメートだった新庄監督と矢野監督。それぞれの思いを胸に、22年シーズンに臨む。(ライター・牧忠則)
※AERA 2022年2月14日号より抜粋