ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「スター・アイドルのイメージ」について。
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総じて大雑把なものと言えば、スターやアイドルに対して世間が抱くイメージです。例えば、その人を物真似する際のお決まりの台詞があります。ミスター巨人軍の長嶋茂雄さんと言えば「いわゆるひとつの……」だったり、ビートたけしさんであれば「なんだバカヤロー」など。
これらの定番フレーズは、往々にして本人たちはそこまで多用している意識がないものばかりだそうです。女性司会者の草分けである芳村真理さんの「どうもー」も、実は明石家さんまさんによる物真似によって広く認知されたものであり、ご本人的には「言った憶えはない」とのこと。おそらく村田英雄さんも「村田だ!」とは言ったことはないはずです。
そうは言っても、いわゆる「想像・妄想」の域で、広く世間に認識されるというのは、これぞスター・アイドルの証しにほかなりません。デフォルメされたイメージは、浸透すればするほど、本人たちとは乖離し、独り歩きしていきます。コロッケさんがやる岩崎宏美さんの顔真似などがその典型です。それでもやはり、岩崎さん本人を拝見するにつけ、「あながち全然違うわけではない」と思ってしまうのも事実で、いかに私たちが「岩崎宏美」に強固なファンタジー妄想を抱いているかを表しています。
その一方で、世間のイメージに同調するかの如く、自らをアップデート・上書きしてくるスターも少なくありません。田村正和さんや田中邦衛さん、桃井かおりさんなどが良い例でしょう。ほかの誰より自分で自分を誇張する。言ってみれば「この世で最も桃井かおりの物真似が上手なのは桃井かおり」という、究極の自己肯定力の持ち主です。
私にはこの手の感覚がまったくと言ってよいほどないため、いつも「すごいなぁ」と感心するばかりなのですが、彼らからすれば「世間のニーズにもっと応えよう」としている内に加減みたいなものが分からなくなってしまった感じなのでしょうか? いずれにしても、それだけ自分に自信や確信が持てる、さらには世間の目を信用できるということなわけで、羨ましい限りです。最近だとIKKOさんも、完全に第三者的イメージの上に自分を委ねていて、まさに「win‐win」の関係性を築いています。