元朝日新聞記者 稲垣えみ子
元朝日新聞記者 稲垣えみ子
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 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣さんがリメークしたボタンダウン

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 ここ数年、新しい服を買うことをほとんどしていない。っつうかそもそも興味がない。金満会社員時代は湯水のように金をつぎ込んでいた身からするとウソのようだが、我慢とかじゃなく本当に興味がないのである。理由はいろいろあるが、とりあえず今一番気に入っているのは手持ちの服やもらった服をリメークして着ることである。

 リメーク……ですよ! しかも自分でやるんです! いやはや我が人生にこんな日が訪れようとは! かつて学校の家庭科の裁縫ほどイヤなものはなかった。オシャレな服が何でも売ってる時代に何でわざわざもっさりしたスカートとか手作り? わけわからん。課題は全部こっそり持ち帰り母に作ってもらった。無論バレてひどい成績をつけられたがへっちゃら。正しいのは私と信じてた。それが今や頼まれもせんのに自主的に裁縫。しかもそれをヘビロテで愛用。一から作るわけじゃないとはいえ、どう考えても「大したもんだ」と自画自賛せずにはいられません。

ボタンダウンもリメークしてみた。アイロンがないのでシワクチャだが「味」ってことで(写真:本人提供)
ボタンダウンもリメークしてみた。アイロンがないのでシワクチャだが「味」ってことで(写真:本人提供)

 これにはコツがありまして。

 ポイントは「袖の長さ」と「スカートやズボンの丈」なんですよね。ここを自分に似合うようにイメージしながら少しずつジョキジョキ切っては実際着て鏡でチェックするだけ。端の始末なんぞしない。ほつれた感じも可愛いし、気になるなら糸をカットしよう。さらにブカブカなら脇をザクザク並縫いして細くすりゃあいい。それも面倒なら安全ピンで適当にツマんでもよろし。

 これを思いついたのは、白シャツが欲しくて、でも案外買うとなるといいのがなくて、フト実家の父が会社員時代の服を整理したがっていることを思い出し、ワイシャツをもらって上記のごとくリメークしたのである。そうしたら会う人会う人に実に褒められて、私はついに悟ったのだ。

 結局、オシャレに見えるかどうかは「サイズ」と「形」次第。体形も雰囲気も人それぞれなのだから、自分に合うよう作り替えるのは最も合理的なのだ。どんなブランドの服もかなわなくて当然と一人ほくそえむのであった。

◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2022年8月8日号