欧州ではお酒もチョコレートも大人が嗜むもの。日本にもお酒とチョコのペアリングを提案するプロやバーが登場。ゆったりした時間の中で、相乗効果を味わえば世界が広がっていくという。AERA 2022年2月14日号の記事を紹介する。
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お酒を嗜(たしな)む人の感性を刺激するチョコレートを探求し続けるショコラティエ、石井秀代さんは昨年11月、「大人の遊び」をテーマに自身のブランド「YES.SHE KNOWS」をローンチした。
料理研究家として欧州で研鑽(けんさん)を積んでいた24歳の時、食後にチョコで話に花を咲かせるヨーロピアンに驚いた。チョコはコミュニケーションツールになる! 日本でもそんなチョコを作りたいと興味を持った。
■個性の掛け算の戦い
2018年にショコラティエの資格を取得。自身のブランドを形にしようと本格的に動き出した。当初はお酒とチョコのペアリングを考えていなかったが、昨年正月に訪れた沖縄で閃(ひらめ)いた。参拝に訪れた寺のすぐ先の鍾乳洞の古酒蔵で、泡盛の「龍」と熟成させた豆腐(とうふ)ようが貯蔵されていた。
「鍾乳洞でじっくり熟成させた豆腐ようをチョコにしたら? この二つを合わせたら? 大人のチョコはこの龍や豆腐ようのように、ゆったりした時間の中で味わってもらいたい」(石井さん)
豆腐ようを起点に、味覚の「五味」を追求したお酒に合うチョコを作ることに決めた。全6種のペアリングチョコは、八重山諸島の新月の日に採取した海水で作られた塩、100年前の製造方法で作られた味噌(みそ)など、素材にこだわるが、狙いはあくまで「お酒を嗜む人の感性を刺激するようなチョコ」。少しずつ食べるたびに複雑味を増すことをテーマに試行錯誤を重ねた。山椒(さんしょう)のチョコ「Emerald」は、真ん中に0.03グラムだけ実山椒の醤油漬けを入れ、周囲に和歌山のぶどう山椒を石臼引きにしたものを煮立てて使う。
できたチョコは日本酒の蔵元、ソムリエ、レストランオーナーなど40人ぐらいに試食してもらった。すると、誰もがお酒のジャンルだけでなく、細かく銘柄まで提案してくれた。
「自分で作っていながらも『こんなに世界が広がるものなんだ!』と今も思い知る日々です。チョコとお酒のペアリングを試す時は、個性のあるもの同士の掛け算の戦いと考えると面白い発見があります」(石井さん)
ペアリングには掛け算の楽しみがある──。取材したすべての人からそう聞いた。本当にピッタリ合うチョコとお酒を味わうと世界が変わるらしい。
(フリーランス記者・坂口さゆり)
※AERA 2022年2月14日号より抜粋