■救いのメッセージ
話を聞く中で、何度か「逃げない」という言葉が飛び出した。力強い発言は、自分自身を奮い立たせるためでもあるという。
「臆病なんです。逃げない、諦めないって言うけれど、心のどこかで『ダメかもしれない』と思う自分がいたりして」
役者という仕事柄、常に誰かと比較され、見知らぬ人からの評価を受ける。「あの山田裕貴は良かった」と言われることもあれば、その逆もある。うまく演じきれたか不安になることもある。そんなときに支えになったのは、やはりワンピースだった。
「ルフィは絶対に逃げ出さない。『ぶっ倒す』と言ったらちゃんとぶっ倒すし、『仲間を助ける』と言えば絶対に助けている。一度だけ、ルフィが『俺は弱い』って言ったことがありますが、それも自分のことをちゃんと理解しているから出た言葉だと思うんです」
コミックスは、8月4日に103巻が発売予定、ジャンプ本誌では最終章が幕開けした。ワンピースは生き方そのものだと語る山田さんにとって、フィルムレッドは今の世の中へのメッセージが詰まった作品だという。
「人にはそれぞれ信じているものや正しさがあって、それ以外は悪だと決めつけてしまうことがありますよね。でも、それは自分自身をも苦しめて、生きづらくしてしまっている。フィルムレッドは、そうした人生に降りかかることをウタがすべて背負って、救ってくれる映画です。あぁ、ワンピースはすべてを受け止めようとしているんだ、とも思った。ワンピースに触れたことがなかった方も、この機会に劇場で観てほしいです」
「劇場」を強調するのには、ただ大画面で迫力満点の映像を楽しんでほしいという思いからだけではない。今作は新時代の歌姫・ウタによるライブステージが表現されるなど、音楽映画としての一面も併せ持つ。(編集部・福井しほ)
※AERA 2022年8月8日号より抜粋