◆落ち着いた環境 アイデアを育む
松野浩嗣理事は「最も重視するのは自発性。授業のため、就職のためというより、学生自身が自分で考えてやっているかどうかが大切」と話す。
審査に関わったなかで、特に松野さんが印象に残っているのが「山大にゃんこ大作戦」。大学構内にすむ猫の実態を調べ、関係性を育みながら、最終的に飼い主のいない猫を大学から減らすことを目指した。このほか、県内の鉄道を利用して、人気ゲーム「桃太郎電鉄」に見立てたイベントを開いたり、地元の子どもたちを周防大島に案内したりと、地域に根ざす企画も多い。
「大学本部のある山口市は、県庁所在地で人口が鳥取市、甲府市に次いで少ない。人混みのない落ち着いた環境でアイデアも生まれやすいのでは」と松野さん。
鳴門教育大(徳島県鳴門市)は、文部科学省の調べで、全国に44ある国立の教員養成系大学の中で19年、20年ともに教員就職率が1位。21年も3位だった。
多くの教員養成大学で教育実習があるのは3年もしくは4年次だが、同大は1年生から大学の付属校園で「ふれあい実習」があり、学校現場で教員や生徒と交流を重ねる。
16年、講義棟の一角に設けられた「ラーニング・コモンズ室」は、小学校で使われる机や椅子を用いて教室の様子を忠実に再現。電子黒板などのICT教材を備え、黒板も実際の小学校のものと同じ高さに調整され、実習前に授業の練習ができる。
校舎は鳴門市街地から海峡を隔てた島の中にあり、渡し舟で通う学生もいる。京阪神方面から高速バスも運行している。
90年に開学した富山県立大(富山県射水市)は、当初は工学部しかなかったが、19年の看護学部の新設を機に、全国でも珍しい「看工連携」の教育研究が始まった。
両学部の教員がオムニバス形式で講義するほか、正しいケア方法を習得するため、赤ちゃんの抱き心地を数値化する研究も進められており、将来的に看護学部の実習に取り入れていく予定という。
「看護師の仕事は血圧、体温、脈拍の測定など、計測も多い。工学研究の知見を借り、従来は勘に頼っていた仕事をデータ化することを試みている」と中島範行副学長は話す。
地方の大学で研究する利点については、「大学近くに下宿すれば家賃や移動時間も抑えられる。目的をもって学びたい人には、とても良い環境です」。ライフスタイルや働き方の見直しが進む今、地方の大学で学ぶ選択肢を検討してはいかが。(本誌・松岡瑛理)
※週刊朝日 2022年2月25日号