2017年デンマーク・コペンハーゲンで現地の市民ハイネさんとのセルフィー(自分撮り)に応じた徳仁皇太子(当時)

 ふと乳母車に赤ちゃんを乗せた若い日本人女性が近づいてくる。徳仁皇太子の顔を見ると一瞬、ポカンと口を開け、すぐに悲鳴のような声をあげた。

「うっそぉー。あら、ナルちゃん。どうして!」

 公式訪問ではなかったので、徳仁皇太子がバンクーバーに滞在していることを知らなかったのだろう。

 だいぶ大きな悲鳴だったが、徳仁皇太子は、にっこりと笑うとその若い母親と会話をはじめた。

 若い母親が去ると、徳仁皇太子は多賀さんに、茶目っ気たっぷりな表情でこう口を開いた。

「うっそぉー、と言われても困りますね」

 すぐに、観光客らしき日本の女子学生が徳仁皇太子の姿を見つけて、キャーキャーと騒ぎ出した。彼女たちは、ちょと恥ずかしそうに、しかし手に持ったカメラをしっかりと差し出してきた。

「皇太子さまと、一緒に写真を撮りたいんです」

 総領事として横にいた多賀さんが、女子学生の大胆さに戸惑った。しかし、徳仁皇太子は、気さくな雰囲気で、「いいですよ」と応じて、彼女たちとカメラにおさまった。

 穏やかに、そしてごく自然な所作で相手の気持ちを受け止める。こうした姿勢は、ずっと変わっていない。

 即位を前にした2017年、デンマークを訪問した徳仁皇太子は、地元住民からセルフィー(自分撮り)で一緒に写って欲しいと頼まれ、笑顔でツーショット写真に納まった。

 マレーシア訪問でも同国のナジブ首相が、自身のツイッターに「一緒にセルフィーができた」と書き込み、徳仁皇太子とのツーショット写真を投稿している。

 多賀さんが侍従として皇居にいたころ、平成の天皇も、よくご自身のカメラを持ち出して侍従やそばに仕える人たちと一緒に写真を撮影していたという。

「当然ですが、その写真が現像されて私たちに配られることはない。報道の機会は別として、ご自身のプライベートな写真を外に出すことについては慎重でいらした。たとえば、昭和天皇が職員や知人と気軽に撮影に応じるなどということは、考えられなかった。それを思うと、天皇と国民の関係は、大きく変わりました」  

 雅子さまのご体調問題や、眞子さま結婚問題に関わる報道やインターネットの書き込みなどで、複雑性PTSDと診断されたことで、天皇や皇族も、生身の人間であるという認識が国民にも浸透しつつある。

暮らしとモノ班 for promotion
【フジロック独占中継も話題】Amazonプライム会員向け動画配信サービス「Prime Video」はどれくらい配信作品が充実している?最新ランキングでチェックしてみよう
次のページ
寒さで手足の感覚がなくなる天皇の新年の祭祀