もう一つは、財政再建。これは中曽根康弘内閣以後、好調だった経済が悪化していくわけだけど、小渕内閣のころは先進国の中でも極めて悪い状態だった。だから、「財政問題で思い切った改革をやるべきだ」と言った。これは、できないまま終わっちゃったね。

 小渕は体調を崩して突然に入院し、病状悪化で亡くなってしまう。

 小渕は大きな問題に苦しんだ。実は、連立政権を組む自由党(当時)の党首、小沢一郎から、党が一緒になるべきだと強く求められていた。自民党の中には当然、反対が強い。彼は困惑し、ストレスを抱えた。

 そんなころ、テレビ番組で小渕と対談した。このときにね、どうも顔色が悪い。だから気になって、「元気がないね。夜、ちゃんと寝ているのか。5時間くらい寝ている?」と聞くと、小渕は「5時間寝るのは夢だ」と話していた。長期政権になっていたら、財政再建をやっていたことだろう。

 自民党の歴代総理で人柄が一番いいのは、小渕だと思ったね。中曽根の場合は、僕がしゃべると、大学ノートにメモを書いた。小渕はね、メモ用紙にまさにメモしていた。さらにおもしろいのは、あとで電話がかかってくるの。メモの内容について「田原さんはああ言っていたけど、どういう意味?」などとね。世間でも、気さくに電話をかけてくる首相として親しまれ、名字をかけ合わせた“ブッチホン”は新語・流行語大賞になった。

 家に帰ると、留守番電話に「もしもし小渕です……」と入っていた。首相時代は、会ったり電話したりとしょっちゅう話をしたよ。

◆「次は加藤」明言 裏切り!?に激怒

 小渕はこんなことを僕に言ったことがある。「自分は才能がないから、人の言うことを聞いて、聞くことで情報を得て、いろんな人から聞くことでどうすればいいか考えている」とね。

 たしかに「真空総理」とも呼ばれたけど、実際、自分でそれを認めていたの。人の言うことを聞いて、どうすればいいかを考える。デモクラシーというのはそういうものだからね。小渕に似たタイプは、今の岸田文雄首相かもしれないね。彼もわりと、野党の言うことをちゃんと聞くよね。

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