ついに創刊100周年を迎えた週刊朝日。中でも25年以上の歴史を持つ作家・林真理子さんの連載「マリコのゲストコレクション」では、スタート以来、数々のゲストにご登場いただいてきました。週刊朝日ゆかりの人による、100年たっても色あせない選りすぐりの名言をお届けします。今回は作家・渡辺淳一さんです。
社会現象を巻き起こした『失楽園』など、数々のベストセラーを残し、「文壇のキング」と呼ばれた渡辺さん。冷静な人間観察に基づいた情熱的な作品の数々は、今も愛され続けています。週刊朝日では、過去に小説を連載していたことも。マリコさんが尊敬してやまない作家の先輩との対談は、短編執筆のスタンス、作家のあるべき姿などの話題に。そして“愛ルケ”こと『愛の流刑地』にまつわるこぼれ話も飛び出し──。2006年3月10日号掲載
連載小説「桜の樹の下で」(1987年5月~88年4月)など
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林:先生は短編を、どういうスタンスで書いてらっしゃるんですか。
渡辺:短編は輪切りだね。大根の断面を書いて、前後を想像させるという。長編は大根の細いところから太いところ、そしてうねったところまですべて書くよね。おいしい大根を1本全部書く。
林:私、短編を書くときに、ついオチをつけちゃうんですけど、なんか下品になっちゃいますよね。
渡辺:そうそう、オチがはっきりしすぎると軽くなっていけない。短編小説のポイントはへそというんだけど、へそが出すぎるとダメ。最近、短編をよくわからず、へそが目立つほうがいいと思い込んでる作家もいるけどね。そうじゃなくて、全体の読後感が大きな波のように、じわっと迫ってくるのがいいんだよ。
林:それ、すごく難しいですよね。
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渡辺:春、桜が満開のとき東京に出てきて、翌年の夏に直木賞をもらったからよかったけど、それまでの1年ちょっとは、医者という捨てたものが大きく見えて、早まったかな、と後悔もしていたから。