例えば「鬼滅の刃」におけるufotableや、「呪術廻戦」におけるMAPPAなど、大手のアニメ制作会社の場合、制作会社も出資して製作委員会に入り、作品のヒットの恩恵を受けることができる。ただ、多くの場合制作会社はこの製作委員会には入っておらず、制作資金以上のお金を受け取ることができないのだ。
こうしたシステムは「製作委員会方式」と呼ばれ、制作会社にとっては不利にも見えるかもしれない。ただ、この方式があることで、作ったアニメが赤字になったとしても、制作会社は赤字をかぶらなくていいメリットがある。実際にアニメが黒字になる確率は10本に1本と言われており、制作会社にとって自ら制作費を負担することはリスクとなる。また、この製作委員会方式のおかげで、アニメの本数が劇的に増え、制作会社にとってはそれだけ仕事の機会を得られることにもつながっている。
だが反面、自社が制作したアニメが予想外のヒットをしたとしても、その恩恵にあずかることができないという側面もある。それゆえ、過去にヒット作があるアニメ制作会社であっても、実際に倒産した企業はいくつもある。
アニメ製作におけるこうした構造は、原作のないオリジナルアニメが生まれづらい状況にもつながっている。資金力に余裕がないアニメ制作会社側にとってみれば、なるべく製作委員会に出資するリスクを減らしたいため、ここぞと資金を出す作品はヒットが見込めるものにどうしても限られる。そしてアニメ化する前からヒットが見込める作品の代表例は、「鬼滅」や「呪術廻戦」のように既にヒットしている漫画原作だ。
もっとも、こうした作品はかなり数が限られており、基本的には大手の制作会社が受注することとなる。これが、アニメ制作業界の「勝ち組」と「負け組」の差がはっきりしてしまっている一因になっているのだ。
もちろん、制作会社には大手に限らずそれぞれ優秀なクリエイターが所属しており、こうした漫画原作に負けない作品を生み出せる人材が眠っている。ところが、実績のないオリジナル作品となれば、製作資金も集まりづらい。また、特に2010年代以降の漫画原作アニメの場合、映像もなるべく原作に忠実であることが求められる。そのため、なかなかクリエイター自身の才能を発揮する機会に恵まれていないのが現状なのだ。
「鬼滅」や「呪術廻戦」が大ヒットを飛ばす裏で、アニメ業界では実はこういう問題を抱えている。ただ、こうした状況は、テレビの放送枠や1話24分という時間に縛られない、ネット映像配信サービスの充実によって変わりつつもある。変化に期待したいところだ。
◎河嶌太郎(かわしま・たろう)
1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「AERA dot.」「週刊朝日」「withnews」「ITmediaビジネスオンライン」「特選街Web」「乗りものニュース」「アニメ!アニメ!」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。