神奈川県横須賀市は、保護者から虐待を受けて避難している大学生に生活保護と同等の金額を支給する制度を設立し、新年度から運用を始める予定だ。全国的にも珍しい制度はどのようなきっかけでつくられ、運用されるのか? 不正受給の恐れはないのか? 関係者に取材した。
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「いまの制度だと、大学生が生活保護を受けようとすると大学を辞めざるを得ないんです」
横須賀市こども家庭支援センターの高場利勝センター長は、こう語る。
新制度設立のきっかけとなったのは、親に虐待され、民間のシェルターに避難していた市内在住の女子大学生だった。女子大学生は虐待によって体調を崩して大学を休学しており、横須賀市の生活保護を受けていた。だが復学するとなった場合は、今の制度上、生活保護は打ち切られてしまう。その窮状を知った虐待どっとネット代表理事の中村舞斗氏、飛田桂弁護士、神奈川県議の敷田博昭氏、牧島功氏らが昨年12月、上地克明市長のもとを訪れたことで、新制度の設計が動き始めた。
しかし、「当初、市長はそれほど前向きではなかった」と、飛田弁護士は言う。
というのも、困窮した大学生らの救済制度としては、文部科学省が2020年4月からスタートさせた「高等教育の就学支援新制度」があったからだ。
だが、就学支援新制度への申請は年2回に限られるうえ、親権者の同意が必要で、虐待された子どもたちがこの制度で支援を受けるのはかなり難しい。
「そんな実態を市長にお伝えすると、『ああ、そういうことなんだ』と、とても理解を示してくださった」(飛田弁護士)
高場センター長も、こう振り返る。
「いまの生活保護制度は、せっかく学ぼうとしている学生さんの意欲をそいでしまう。そんな大学生をいますぐにでも救わなければならないという市長の決断と、われわれ事務方の思いがいっしょになってどんどん話が進み、数カ月で新制度が設立される見込みとなったわけです」