会社のキャラクターはミツバチの「Hatty(ハッティー)」。蜂の巣のハニカム構造のように、強靱なプロダクトに育てたいとの思いを込めた(撮影/写真部・松永卓也)
会社のキャラクターはミツバチの「Hatty(ハッティー)」。蜂の巣のハニカム構造のように、強靱なプロダクトに育てたいとの思いを込めた(撮影/写真部・松永卓也)

 シリコンバレーに移住した時点で、近澤の起業計画はすでにスタートしていた。アイデアはあった。Vikiの字幕サービスもそうだが、インターネットで世界が結ばれても、人々の間には依然として「言語の壁」がある。それを取り除く「翻訳支援ツール」を作ろうと考えた。

 16年9月、近澤はサンフランシスコでLocki,Inc.という会社を立ち上げた。「日本で成功したら」「3年後には」と言っていたら、きっといつまでも世界に出られない。やるなら「ボーングローバル」だ。

 近澤に呼応し、共同創業者になったのが元サイバーエージェントのエンジニアだった山下颯太。両親が見る海外ドラマや映画に憧れ、「海外で働きたい」と思っていた。就活で採用担当者に「エンジニアとして10年の実務経験があれば、米国でビザが出る」と教えられ、15年にサイバーエージェントに入った。

「10年は待てないなあ」。そう思いながら、海外企業の求人情報を漁(あさ)っていた17年のある日、日本で開催されたプログラマーの勉強会に登壇した近澤の話を聞いて衝撃を受けた。聞けばそのまま「サンフランシスコで起業する」という。勉強会から帰った山下は求人サイトで近澤の会社を探して応募した。

 面接に現れた山下を見て近澤は驚いた。「なんだ君、勉強会にいたじゃないか。声をかけてくれればよかったのに」

 山下は照れ臭そうに言った。

「あの場で直接、というのもなんだなと思って」

 出会いがこんな感じだったので、近澤は山下をエンジニアによくあるシャイな性格だと思っていた。ところが一緒に会社を立ち上げると、山下は意外な才能を発揮した。近澤は言う。

「英語がそんなにうまい訳ではないんですが、誰とでも仲良くなる。パーティーで泳がせておくと、お客を連れてくるんです」

 山下は大学生の時、短期留学したオーストラリアで、グーグルの「キャンパス」(オフィスを集めた場所)の周りをうろつき、社員と思われる人々を捕まえては「どうやったらグーグルで働けるの?」「一緒に会社を作らない?」と話しかけた。何人かとはすぐに仲良くなり、コンピューターサイエンスの宿題を手伝ってもらう代わりに、山下が日本語を教えた。一緒にサッカーをしたこともある。

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